今期も話題のドラマ戦線、作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏は、3人の主演俳優に着目した。
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いよいよ出そろった秋のドラマ。独身貴族に、3億円事件、アンドロイド。個性的で目が離せないラインナップになっています。
これまで度々指摘されてきたことですが、主役の座をジャニーズが席巻。ただし、演技力ひとつないアイドルが女の子人気をあてこんで……というキャスティングとは、ひと味違うトーンがじわっと滲み出しています。
木曜日の草なぎ剛、金曜日の長瀬智也、日曜日の木村拓哉。
アイドルもそれぞれ年齢を重ねながら、役作りに向き合っている。現場体験のみならず、出会いや別れ、失敗や人生の辛酸をなめてきた経験によって、陰影が出てきた中年ジャニーズが競い合っています。
まず、草なぎ剛主演の『独身貴族』(木曜日フジ系午後10時)。美食三昧の独身貴族、映画制作会社社長を演じる草なぎ剛。金はあってもバブル時代と違い、どこか浮かれていない。生活へのこだわりや経営の苦労が見え隠れする。黙っている時、その横顔にペーソスと孤独感とが漂う。そんな難しい存在感を、上手に表現しています。
何と言ってもこのドラマ、背骨にあるのは「映画へのオマージュ」。シャレたオープニングロール、「エデンの東」「シャレード」などのBGM、映画のワンシーンなどが挿入され、様々な映画的引用が仕込まれている。そんな大人の遊び心が、よくあるラブコメディの稚拙さや粗さを制御し、秀逸なトーンに仕上がっています。
一方に、悪徳刑事が躍動する『クロコーチ』(金曜日TBS系午後10時)。長瀬智也演じる、クセのある刑事・黒河内。すっトボケたキャラと野獣のような荒々しさを併せ持つ人物。
敢えて低く抑えた発声、ゆっくり間をとるしゃべり方、鋭い目つき。独特な人物造形をする長瀬智也。正義と悪役とを計算した演技が光ります。新人刑事・剛力彩芽とのとりあわせも「美女と野獣」的なコントラストで楽しい。
このドラマ、凶悪犯人を追う表のストーリーの後に、昭和のあの未解決事件「3億円事件」の謎がある。緊張に満ちた伏線、その時空間の奥深さ。当時のモノクロニュース映像が挿入されたりしてスリリング。その意味で、このドラマの背骨を支えているのは「社会的事件への接近」でしょう。
上記二つとはまた色合いの違う、キムタク主演の『安堂ロイド~A.I. knows LOVE?~』(TBS日曜午後9時)。天才物理学者と100年先の未来から送り込まれてきたアンドロイド、1人2役を演じ分けるキムタク。
物理学者と、ツルリと無機質な質感が際立つ安堂ロイドの美しさの対比。柴咲コウとの絶妙なやりとりによってそれを際立たせるあたりが、このドラマのツボでしょう。
「一昔前のハリウッドのSF映画の劣化版」、「ターミネーターの焼き直し」といった酷評も聞かれますが、はたしてそうでしょうか。アンドロイドといったSF的設定も、キムタクが人物を演じ分ける手腕を見せるための仕掛けにすぎない。ドラマのテーマはズバリ、「純愛への憧れ」でしょう。
まさしく三者三様。テーマも「映画へのオマージュ」、「社会的事件への接近」、「純愛への憧れ」と多彩。
そんじょそこらのジャリタレには真似できない、中年ジャニーズたちの奥行き感ある仕事ぶり。秋が深まりつつあるこの季節、3人の主役を見比べ味わい分けることこそ、最も贅沢なドラマの楽しみ方ではないでしょうか。