“みうらじゅん先生”が思春期の若者に向けて、学校では決して学ぶことのない本音の“保健体育”をレクチャーする『正しい保健体育』(イースト・プレス)。第2弾となる『結婚編』では、性教育や夫婦生活、子育て、介護についてためになるヒントを伝授している。結婚はしたものの、妻の扱い方や面倒くさい親戚づきあいに悩む人も多いのでは。みうら先生による夫婦関係をよくする秘訣、“介護される鉄人”を目指すための授業スタート!
――この本にある“正しい新婚旅行”を実践したら、成田離婚は避けられそうですね。
みうら:新婚旅行とは、結婚式の準備をしたかたへのご褒美ですから。もし伴侶となる女性に大変な結婚式の段取りを任せきりにしてしまったなら、男性は新婚旅行の行き先など口を出してはいけないということですね。あとは新婚旅行と観光旅行は別物、ということですね。要は景色ではなく、目の前にいる女性を見ろ、ということです。初夜では、ラブホテルに窓がないように、外のきれいな景色よりも女性をじっくり見るべきですよね。そして、褒めるべきですよね。本には初夜を迎えるまでの行動を手引きしましたが、全部実践したらたぶん女性に本気で喜ばれると思いますよ。
――面倒な親戚づきあいのかわし方なんていうのも“保健体育”の授業では初めてかと。
みうら:親戚の中には必ず面倒くさい人がいますでしょ。結婚式に来てほしくなければ、出席できないくらい遠くで挙式しなさいとこの本では書きました。でも、本当はそんな面倒くさい人を呼んでまで、結婚式なんてやらなくていいと思うんですよ。ただの見栄と体裁ですよね。普通のナントカ家の体裁なんて、どうでもいいですよ。伯爵家じゃないんですから、本来、凡人に披露宴とかいらないですよ。
――妻の機嫌をうかがう男性も多いと思いますが、どうしたら夫婦関係を円満にできますか?
みうら:“女の人には口答えしない”だと思います。とりあえず、女の人の趣味にもつきあう。自分の趣味は、外でやればいいんです。両親を親孝行旅行に連れていくなら、両親の意見を聞けばいいだけで、そこにちょっとでも自分の意見を挟もうとするからモメるわけです。そこに身をゆだねる時間なんて短いじゃないですか。結局は邪魔くさいことに理由をつけて避けているだけだから。自分によく問いかけたら、結論出ますよ。嫁が最近ウザく感じるのはどうしてだと自分によーく聞いてみると、原因が自分だったりすることがほとんどですしね。
人は面倒なことが自分の範囲が及んでくるとシャットアウトするようにできてるんです。脳みそは自分がかわいくて仕方ないから。だから、脳みその言いなりにならないように、全く関係ないことを考えてみる訓練をしましょう。何の脈絡もなくいきなり「例えば」と言ったら、例えることがないのに言うわけだから脳は追いつかないわけですよ。要するに、仏教で説いている“自分なくし”ですよ。自分なんてあるから面倒くさいんですよ。他人に合わせたらいいじゃないですか。
――みうらさんご自身も奥さんに添う姿勢ですか?
みうら:人生は修行ですから。サービスって言葉は嫌なので、“自分なくし”ですよね。“自分なくしの旅”って呼んでるんですが、自分の主張が出たら、ひっこめると。「あ、俺が出た」、「いらない」と呪文のように唱えてますから。反対のことを口癖にしてれば慣れてきますよ。「なんで俺がやらなきゃなんないんだよ」とかよくオヤジが言いますけど、やればいいだけのこと。「俺がやるべきだ」と自分に対して言い張ると、そのうち、そう思えてくるもんです。そうやっていれば、尻に敷かれるって言葉もなくなりますよね。
――結婚してわかったことはありますか?
みうら:結局は最終的な介護ですよね。そのためには、介護してもらう側の体制を整えなきゃいけないと思うんです。“意見を言わない”、“子供返りして子供のようなかわいげを身につける”。これを今から癖つけておかないと手遅れです。かつて重役だった人が急に家にいつくようになって、まだ重役きどりで威張ってるようでは、奥さんも世話してくれませんよ。しおらしい、かわいいなと思われてこそ、自主的にやりたいなと思ってくれるわけです。赤ちゃんはかわいいからうんこも拭いてもらえるけど、重役きどりの親父の下の世話なんて誰もしたくないですよ。
――確かに、かわいげのない老人はちょっと面倒見きれないですね。
みうら:しかも、嫁にとっては他人の親の場合もあるでしょ。ゾッとしますよね。嫁が介護するのは当然だって思ってるじいさん、ばあさんもいますから。もし介護をしてもらいたかったら、徐々に自分の立場とか意見なくして、「うまい」「まずい」もなくし、素のままを言える訓練を整えておくべきです。ラーメン作ってもらったときに、ただ「うわ~ラーメン出た~」とか言って、かわいさを売っていきましょう。赤ちゃんはそう言うでしょ。だからかわいいんですから。そこにラーメンのウンチクとか言われてもうるさいだけですよ。
“介護される鉄人”は、赤ちゃんのようにかわいいってこと。見た目だって、できればシミやシワもつくらず肌もツルッツルでいきたいですよね。きたないのはよくないですよね。清潔感がないとね。これから老人がますます増えるけど、かわいげのない老人がみんな、自分は介護してもらえると思ってるんですよ。昔は家が一個だったから仕方なく家で介護したけど、今は介護から逃げることだってできるんですから。
――勉強になりました。このシリーズは続いて行くとのことですが、次回作は?
みうら:次はね、霊界編ですから(笑い)。死んだあとどうするかですね。丹波哲郎さん以来言っていない、「死んだらこうなる」ですね。
【みうらじゅん】
1958年2月1日生まれ。京都府出身。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー後、イラストレーターやエッセイスト、小説家、ミュージシャンなど、ジャンルを超えて活躍している。独自の着眼点からさまざまな流行語も生み出し、「マイブーム」は1997年の日本流行語大賞を受賞。他にも各地域のマスコットキャラクターを「ゆるキャラ」と命名して一大ブームに。仏像マニアとして知られる。著書に映画化もされた『アイデン&ティティ』(角川文庫)、いとうせいこう氏と共著の『見仏記』シリーズなど。