書籍やDVDだけでなく、日用品や家具、ネジ1個でも注文できるアマゾンは、世界的な企業の代表格だ。そのアマゾンがなぜ、いまも成長し続けているのかについて大前研一氏が解説する。
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アマゾンは、株取引をコンピューターで自動化するシステムをウォールストリートに提供する会社で上級副社長を務めていたジェフ・ベゾスが独立して1994年に創業した。ベゾスは翌1995年にインターネット書店を開設したが、当初から「私は本屋では終わらない。世界最大の小売業になる」と宣言していた。
そしてCDやDVDなどの一義的に決まる(それしか選択肢がない)左脳型商品で事業を拡大しながら、デジタル新大陸の“三種の神器”である「ポータル」「物流」「帳合」を拡充していった。
ところが次に、一義的には決まらない(選択肢がいろいろあって人によって好みが異なる)右脳型商品の家具に参入して惨敗した。お客さんが思っていたのと大きさや色調などが違っているケースが頻発し、全く売れなかったのである。
その時、ベゾスが注目したのがオンライン小売店の「ザッポス(Zappos)」だ。台湾系アメリカ人のトニー・シェイが投資家、そしてCEOとして急成長させたザッポスは、靴のネット販売で大成功を収めていた。ネットでは売れないと言われていた右脳型商品の典型である靴で、なぜザッポスは成功したのか? 「返品自由」のビジネスモデルを確立したからだ。
靴はリアル店舗に行っても、ピッタリ合うものを見つけるのは大変だ。何足も履いてみなければならない。しかし、ザッポスなら4足でも5足でも注文して自宅で洋服と合わせながら試し履きし、サイズが合わなかったり、デザインが気に入らなかったりしたら、自由に返品できるのだ。
この仕組みが右脳型商品を売る解決策だと気づいたベゾスは、2009年に12億ドル(当時の為替レートで約1070億円)でザッポスを買収し、靴だけでなくファッション、バッグ、ジュエリーなどの右脳型商品を次々に手がけていったのである。
何でもかんでも返品自由にできる理由は、アマゾンが世界最強の物流を持っているからだ。ちなみに、日本での物流の強化には、日本の出版界が“貢献”している。アメリカでは本のマージンの中から20~30%を割引して売っているが、日本の場合は再販制度の下に定価販売が義務づけられているため、マージンを丸儲けできるのだ。その利益を物流の強化に注ぎ込んできたのである。
さらにベゾスは2012年に、倉庫用の自走式ロボットなど物流拠点向けのシステム開発を手がける「キバ・システムズ」も、7億7500万ドル(約650億円)で買収した。キバのシステムは、商品棚の間を多数のロボットが自走して出荷用の段ボール箱を集めてくるもので、倉庫の省力化や処理時間の短縮を図ることができ、人件費の削減や出荷作業の効率化につながる。
ザッポスはネバダ州、キバはマサチューセッツ州の会社だが、拡大するアマゾンの生態系に呑み込まれたわけである。
※週刊ポスト2013年11月1日号