いったい誰のための入試制度なのだろうか。
早ければ5年後に廃止される見込みの大学入試センター試験。1990年に共通1次試験から名称が変わって以降、国公立のみならず私立大学の参加も増え、いまやほとんどの国公私立大が合否を決める大事な判断材料にしてきた。
そのセンター試験を根底から見直す一大改革。「1点を争う競争から、人物本位の選抜への転換」(政府の教育再生実行会議)という高邁な理想が掲げられた新制度の中身はこうだ。
(1)現行のセンター試験を「達成度テスト(仮称)」に改め、基礎テストと発展テストに分ける(2)基礎テストは高校2年から複数回受けられ、大学の推薦・AO入試と併用できる(3)発展テストの結果は1点刻みではなく幅をもたせて段階的にランクする――。
確かにこの制度、一発勝負で運に左右されるセンター試験と違い複数回受験でき、その中から一番良かった成績を大学受験時に利用できるという意味で、受験生にとってチャンスは広がったといえる。だが、現場ではこんな懸念がつきまとっている。
「高校受験が終わったばかりの生徒にすぐに基礎テストの対策を施さなければならず、修学旅行や学園祭、クラブ活動の日程も大幅に変えなければならない。長期のカリキュラムが組める中高一貫校や受験予備校ばかりが得をして、われわれ現場や生徒は混乱するばかり」(千葉県の公立高校教諭)
高校教育のすべてが大学受験に振り回されて終わる“受験熱”の高まりなら、人格形成など図れるはずもない。
大学通信常務取締役(情報調査・編集部ゼネラルマネジャー)の安田賢治氏は、達成度テストによって広まる推薦・AO入試に疑問を投げかける。
「達成度テストで優劣がつけにくくなった分、面接や小論文で人物を見ようということなのでしょう。もちろん学力偏重ばかりになるのはいけませんが、面接で振るい落とせば『あなたはこの大学に相応しくない』と人間性を否定することになり、受験生は落ち込むばかりか諦めもつきませんよね。そんな選抜方法が大学受験に必要なのでしょうか」
面接とともに重視される小論文も、「予備校で書き方を指導されれば似たような文章が多くなり、そこから優劣をつけたり人物像をみたりするのは難しい」(大手予備校講師)と懸念されている。
いくら学力が高くても社会常識のない学生は採りたくないという大学の気持ちも分かる。しかし、安田氏は「それは人間教育の放置に他ならない」と憤る。
「大学は人間を教育する場でもあるから、面接で性格が偏った受験生がいたら『社会で活躍できる人材に鍛え直そう』と考えるのが本来の大学の役目です。コミュニケーション能力やプレゼン能力など社会人に必要なスキルは、必修科目にするなど大学教育を見直すことこそ論議すべきで、受験の入り口だけ変えても意味はありません」
前出の公立高校教諭は、こう吐き捨てる。
「結局、新しい入試改革は文部官僚や大学総長など挫折知らずで教育現場の実態を知らない人たちが机上で設計しているだけ。いまのセンター試験は良問ぞろいで完成されているし、高校2年までしっかり勉強していれば解けるのが前提となっているにもかかわらず、わざわざ基礎と発展に分ける意味がどこにあるのでしょうか」
高校から大学への接続がうまくいかず、何よりも受験生の人材育成が進まない入試改革に、教育再生など望むべくもない。