政府は来年度に向けた税制改革大綱で1600億円分の「所得拡大促進税制の拡充」を決定した。
これは給料総額を2%以上増やした企業に賃上げ分の1割、法人税を減免する制度だ。しかし、最初から効果は期待できそうにない。そもそも日本の企業約260万社のうち186万社(72%)は赤字で法人税を払っていない。「減税するから給料上げろ」といっても、186万社は対象外なのだ。
黒字企業にも効果は薄い。給料総額5億円の企業が2%(1000万円)給料を増やしても、法人税はその1割の100万円しか控除されないため、900万円分負担が増えるからだ。企業にすれば、全くメリットがない。それどころか、“法人減税は辞退するから、賃上げもしない”という免罪符にさえなりかねない。
まさに絵に描いたモチであり、これで賃上げが進むとは安倍政権の誰も本気で思っていないはずなのだ。
さすがに賃上げ減税だけでは国民を誤魔化しきれないと思ったのだろう。この政権はとんでもないことを思いついた。
自民党は小渕優子・元少子化相をトップに「日本を元気にする国民運動本部」を設置し、青年局や女性局の議員が全国を回って中小企業の社長などに直接、社員の給料アップを要請する“賃上げキャラバン隊”を派遣する方針を決めた。
青年局の主力メンバーは昨年の総選挙で大量に当選した“安倍チルドレン”たちだ。若い国会議員たちが議員バッジをひけらかして町工場に乗り込み、正義の味方を気取って「アベノミクスで景気は良くなってる。社員に給料をもっと出せるはずだ」と経営者を締め上げようというのである。
あまりにも現実を見ていない。現在、アベノミクスで儲かっているのは一握りの輸出大企業だけで、前述のように日本の企業の72%は依然として赤字である。
それでサラリーマンの給料が上がるなら結構だが、かえって中小企業経営者の怒りを買いそうだ。千葉の輸送機部品メーカーの社長は怒り心頭だ。
「賃上げ隊? 馬鹿いってんじゃないよ。赤字で資金繰りが大変なうえに、消費税も上がって価格転嫁ができるかもわからない。そんなときに給料上げろなんていう間抜けな連中がやってきたら、国会議員であろうと追い返してやる」
「残業代5割増し法」や「有給休暇買い取り解禁」まど有効な法律を使えばすぐにでも賃上げできるのに、安倍政権はそこには目を向けずに、減税だの賃上げ隊だのパフォーマンスに走る。これでは本気でサラリーマンの給料を上げる気などないと見られても仕方ない。
※週刊ポスト2013年11月1日号