気象庁の予報によれば、今年の冬は例年より気温が低い日が多いという。寒空の下、ホットの缶コーヒーやペットボトルのお茶を片手に暖を取る光景も多く見られそうだが、今年は“変わり種”のホット飲料市場がヒートアップしている。
その代表格といえるのが、コカ・コーラとキリンビバレッジが仕掛けるホット炭酸だ。
コカ社は炭酸飲料ではお馴染みの『ジンジャーエール』をホット専用で発売した。「後味がすっきりしていて、微炭酸の刺激でお腹がポカポカする感じ」(30代女性)と早くも評判は上々。対するキリンは、米を発酵させてシャンパンのような口当たりで人気の『キリンの泡』ブランドのホット商品(芳醇アップル&ホップ)を11月5日に投入する。
飲料メーカーが相次いでホット炭酸を発売する狙いは何か。飲料総研取締役の宮下和浩氏の解説。
「ここ数年、ビールメーカーが定番商品を氷点下で出したり、温めて飲む提案をするなど温度に敏感な消費者に訴えかけるようなマーケティング手法が飲料業界のトレンドになっています。健康志向の高まりからミネラル水やお茶などを常温販売するところもあります。
炭酸飲料を温める提案もそのひとつ。温めると気が抜ける炭酸の特性を独自技術で解消させたことで冷たい商品と変わらず刺激が味わえる。なによりも、冬場は炭酸飲料の売れ行きが夏に比べて4割減になってしまうため、メーカーとしては販売減のテコ入れにつながればと考えているのでしょう」
冷やして飲むのが当たり前の定番飲料をホットで飲む。その新提案は炭酸だけにとどまらない。
例えばカゴメの『野菜生活100ゆず&ジンジャーミックス』は、「ゆずとしょうがの味わいが体に浸み込み、冬場の風邪予防にも最適」(カゴメ)と、温めてもおいしく飲める商品訴求がなされている。
果汁飲料の温かい飲み方提案は他社も勧めている。「朝の冷たい100%ジュースは目覚めの1杯としても良いけれど、寒い冬の朝には、あったかいジュースで暖まるのも今年流」(キリン)
さらに、カルピスの『ホットで味わう なめらかカルピス』やヤクルトの『ホットミルージュ』など乳酸飲料のホット化は、ヨーグルトにまで波及している。グリコ乳業の『朝食やわらかりんごヨーグルト』は、なんとレンジでチンして食べられる仕上がりになっているという。
だが、飲料メーカーのホット飲料を巡る攻防には2つの大きな壁が立ちふさがっている。
「消費者にもっともインパクトを与えられるコンビニは、レジ横にあるカウンターコーヒーの影響を受けて、缶やペットボトルが並ぶホットウォーマーに目が届きにくくなっています。少ないスペースで場所の取り合いは熾烈ですし、定番コーヒーやホットレモンなどを押しのけて棚を奪うのは容易ではありません」(前出・宮下氏)
そして、飲料メーカーが頭を悩ませているのが、来年4月から導入される消費税増税だ。
「いまのところ増税分を価格に転嫁して値上げしようという動きになっていますが、問題は10円刻みでしか上げられない自動販売機の商品をどうするか。例えば缶コーヒーの値段は据え置いて、500mlのペットボトルを値上げして全体でプラス3%になるような価格調整をするなど、さまざまな展開が考えられます」(宮下氏)
増税後はロングセラーを続けてきた商品でさえ出荷量を維持できる保証はどこにもない。飲料メーカーは飲み方提案も含めて数々の“定番”をつくって冬を越したいというのが本音なのかもしれない。