東京から南へおよそ120km。人口8000人余りののどかで緑豊かな島・伊豆大島は一夜にして、真っ黒な泥に覆われた。
10月16日午前9時までの24時間雨量は824mm。これは都心(大手町)の年間降水量の約半分となり、同地域での観測史上1位を記録した。そんな猛烈な豪雨によって、山肌は中腹から大きくえぐられるように流され、土石流は海沿いの市街地をのみ込んだ。
住宅30棟の全壊を含め、300棟以上もの建物が被害を受け、わかっているだけでも死者は29人。行方不明者は18人にものぼる(10月22日18時現在)。
被害が大きかった元町エリアに住む立木美恵子さん(66才)は2年前に夫を亡くし、当日の夜もひとりだった。玄関や窓の隙間からどんどん泥水が入り込んでくるのを見た立木さん。雨漏りと勘違いし、彼女はタオルケットなどで懸命に塞ごうとしたという。
「バカな話でそれでなんとかなると思っていたんですよ。そしたら今度は天井から壁から、玄関から泥水がどんどん入ってきて、みるみるうちに膝まで浸水してきたんですよ。そしたら、電気も消えて。でも、私は普段から台風に備えていて、停電のために懐中電灯やろうそくをテーブルの上に置いていたんですよ」(立木さん・以下同)
土砂災害にかかわらず、地震や津波でも停電は起こりうる。普段から枕元など手に取りやすい場所に懐中電灯を置くようにしておくのは大切なことだ。立木さんはこの懐中電灯のおかげで九死に一生を得た。明かりを確保した彼女は、急いで110番に電話をかける。
「電話が混み合っていたのか、つながらなくて、息子や親戚の家に電話をしたんですが、それもつながりませんでした。その間もみるみる水かさが増して、テーブルの上に上がったのに、泥水は腰のあたりまでやってきたんです。“もうダメかも…”と思いました」
立木さんが絶望しかけたとき彼女の携帯が鳴った。
「警察から電話がかかってきたんです。私は必死で、泣き叫ぶような感じで住所を言ったんです。でも、警察は“大島?”と怪訝そうな感じで…。内地の警察のかただったんです。それで、“大島の警察からかけ直させます”と言われました。それから、やっと大島の警察のかたと話したんです。でも、状況を説明すると“2階へ逃げなさい”と言われて。家は1階建てなので、“平屋だから無理!”と言うと、警察は“外で巡回している警察がいるから、連絡して助けに行くようにしますから”と言ってくれたんです」
しばらくすると、窓越しにパトカーのランプが通るのが見えたという。
「私はもう無我夢中で懐中電灯を振り回しました。グルグルグルグル腕を振り回して。1分だったか、10分だったか、何分やっていたかは全然覚えていません。それで、警察がやっと気づいてくれて、窓を破ってくれたんです。警察のかたに救い出されると、台にして乗っていたテーブルはぷかぷか浮いて流されてしまいましたよ…」
※女性セブン2013年11月7日号