10月13日、『アンパンパン』の作者・やなせたかしさんが心不全のため都内の病院で亡くなった。94才だった。
“生涯現役”を貫いたやなせさんだが、実はその体は満身創痍だった。白内障にはじまり、心臓病、腎臓がんなどを次々患い、自らを“病気の総合商社”と言うほどだった。だが、入院と手術を繰り返しながらも、決して描くことをやめることはなかった。8月末に体調を崩し入院、仕事場と病院とを行き来する日が続いた。
「病院のベッドの上でも仕事を続け、眠っていても頭の中に童話が浮かんでくるほどでした。普通は、年を重ねるごとに創作意欲は落ちてくるものですが、やなせさんはその逆で、年を追うごとにどんどんやりたいことが増えていったのです」(フレーベル館アンパンマン室室長・天野誠さん)
さすがのやなせさんも、90才を目前に耳も遠くなり、目もよく見えなくなった。やなせさんは周囲に「引退」を宣言した。
ところが、ほどなくして東日本大震災が起きる。震災直後からラジオで『アンパンマンのマーチ』が繰り返し流れ、被災地の子供たちが、そして大人たちも励まされた。アンパンマン宛ての手紙が、放送局に届いていると聞いたやなせさんは、涙を浮かべながら心を奮い立たせた。
「引退してのんびりしている場合じゃない。引退はやめた。死ぬまで現役だ!」
そしてひたすら体力づくりに精を出した。毎日朝6時に起床すると、“手首ぶらぶら”から始まり、つかまり屈伸や上体ねじりなどで全身を伸ばすこと40分。“ダンディーにイキがって暮らすのがいちばん”というやなせさんは、それを“ダン爺体操”と呼んで楽しんだ。さらに朝と昼に40回の軽い腕立て伏せもこなしたというから驚きだ。
※女性セブン2013年11月7日号