宗教学者の島田裕巳氏が、高収入を求めず、そこそこ働き自分の生活を充実させていく「プア充」という生き方を提言し、じわじわ支持を集めている。「プア充」が広がる一つの背景として、日本は「カネ持ちに冷たい国」である点を見逃すわけにはいかない。富裕層向けのサービスが貧弱なのだ。
富裕層向けサービスの典型例がプライベートバンクだ。欧米では、顧客本人だけでなくファミリー全体を何世代にも渡って世話することが当然と考えられている。資産管理にとどまらず、子供の教育や家族の健康管理まで総合的にサポートする。
日本の場合、銀行の担当者と顧客の関係はその営業マンが担当する期間やエリアに限定される。経営コンサルタントの小林昇太郎氏(船井総合研究所)はこう語る。
「日本のメガバングもプライベート・バンキング・サービスを立ち上げたが、専用の入り口とエレベーターを作ったり、眺望のよい部屋にカッシーナのソファーを置いたりとハード面は力を入れるが、本当に必要な一人ひとりとどう向き合い、何を提供するのか、それを実践する仕組みができていないことが多いと感じる」
さらに富裕層への妬みそねみも強い。日本では「みんなで一緒に豊かになる」というイメージが長く共有されてきた。そのため、「周りよりも多く稼ぐとなぜか『カネの亡者』と叩かれる。利益を出して税金を納めることが一番の社会貢献のはずなのに、納得できない」(IT企業経営者)といった声が出る。
平等も清貧も立派な社会哲学ではあるが、成功し、稼ぐ人が揃って逃げ出す国に明るい未来がないことは間違いない。
※SAPIO2013年11月号