資生堂の専属モデルとしてデビューし、俳優に転向した草刈正雄は端正な容姿を生かした正統派二枚目だけでなく、コメディや汚れ役など幅広く演じる役者として知られている。しかし、いまだに自分の芝居にコンプレックスを感じるという草刈が語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が解説する。
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今でこそモデル出身の俳優は数多いが、草刈正雄はその先駆的な存在だった。1970年代初頭、資生堂の男性用化粧品「MG5」のテレビCMで端正な容姿が人気を博した後、草刈は1974年に篠田正浩監督の映画『卑弥呼』で岩下志麻の相手役に抜擢されて本格的に俳優としての道をスタートしている。
「モデルの仕事は僕には合ってないと思いました。よく動けなくてカメラマンに叱られていたんです。そんな時にMG5のコマーシャルが決まりまして、ここで芝居がかったことを要求されたところ、これならできると目覚めたんです。自分で考えられるというのが面白かった。
ただ、『卑弥呼』では、まったく監督に動かされるままやっていました。頭がガチガチで。アテレコの時は台詞がなかなか上手く言えず、よく怒られました。
僕は俳優としての基礎的なことをしてこなかった。それが今でもコンプレックスになっています。きっちりとした芝居のバックグラウンドがない。そのために、この歳になってもいろいろと落ち込んでしまいます。
舞台をやるようになってから声を出せるようになったんですが、その前までは自分でも何を言っているか分からないくらいボソボソと台詞を言っている映画が多かった気がします。本当に自信がなかったんですよ。
自分の出演した作品は一切見ません。見ると、落ち込む。そうなると前に進めなくなります。反省ばかりでどんどん後ろ向きになってしまうので」(草刈)
※草刈正雄は11月28日より、ミュージカル『クリスマス・キャロル』に出演。東京・シアター1010、神戸・新神戸オリエンタル劇場など全国で公演予定。
文■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか。
※週刊ポスト2013年11月1日号