円安や原価低減効果によって、自動車メーカーの2013年9月中間決算はそろって増益になりそうだが、中でも前年同期比で“6倍返し”の700億円強が確実視されているのがマツダである。
同社は資本提携を結んでいたフォードとの関係が限定的になって以降、リーマンショックで深い傷を負い、一時は存続すら危ぶまれるほど業績が低迷していた。2013年3月期に実に5期ぶりとなる黒字転換を果たし、ようやく長いトンネルから抜け出した。
とはいえ、「剣が峰に立たされている状況に変わりはない」との指摘もある。
「2013年の世界販売は125万台で世界シェアは2%に満たない。富士重工のようにアメリカで車がバカ売れして利益が拡大しているわけでもない。基本的には国内生産比率が7割を超えて円安の恩恵を受けているだけで、次々と新車が出せるほどの余裕はないはず」(経済誌記者)
だが、「貧乏所帯だからこそ知恵を絞って自分たちの強みを生かそうと頑張っている」と評価するのは、自動車ジャーナリストの井元康一郎氏。同氏が挙げる2つの強み、それは<ディーゼル技術>と<デザイン>である。
「もともとマツダは昭和の時代から三菱と並んでディーゼルテクノロジーが売りの会社。いまでも排ガスのきれいさは世界でもトップクラスで、『CX―5』や『アテンザ』はガソリン車よりもディーゼル車のほうが値段は高いのに売れています。
また、トヨタのHV(ハイブリッド)技術をもらって全面改良した『アクセラ』(11月発売)も、ディーゼル車はHV車よりも50万円ほど高いのに、販売店ではディーゼル車への問い合わせが引きも切らないと聞きます。世の中には“アンチハイブリッド”のユーザーも多く、マツダがその受け皿になっているのです」(井元氏)
ディーゼル車のエネルギー効率は高く、次世代エネルギーとして注目を浴びるシェールガスからも軽油は簡単につくれるという。つまり、シェールガス革命によって技術で先行するマツダのディーゼル車が一気に販売を伸ばす可能性を秘めているのだ。
次にマツダのデザイン改革は、2000年代から洗練さを増している。
「“鼓動デザイン”のコンセプトでヴィヴィッドなデザインに変えています。『アテンザ』などは見れば分かりますが相当思い切ったダイナミックなデザイン。プレス機で型取るには複雑な形のクルマも、鋼板を斜めに置くなどして簡単につくり出せるように工夫しています」(前出・井元氏)
こうした地道な努力でマツダファンを増やしていき、最終的に同社が狙うのは大衆車メーカーからの脱皮だという。
「安物メーカーではなく、プレミアムメーカーになりたいという願望は昔から持っていた。事実、1980年代から弱小メーカーでありながらヨーロッパ車のようなクルマづくりをしています。『ファミリア』は和製ゴルフ、『ルーチェ』に至っては販売マニュアルに『日本のベンツ』と書いてあって驚いたものです。
ただ、急に高級車メーカーになりましたといっても誰も買ってくれないでしょうから、まずは同じ価格ならマツダ車が欲しいと思わせるマニア向けのクルマづくりをして、ブランドイメージを徐々に高めて販売価格を上のほうに引き上げていく戦略でしょう」(井元氏)
一度染み込んだ大衆車イメージをそう簡単に覆せるのか。無謀なチャレンジともいえるが、井元氏は「不可能とは言い切れない」と話す。
「例えばアウディは今でこそドイツ車の御三家と持て囃されていますが、ほんの20年前にプレミアムメーカーを志向したときは、当のドイツ人からもバカにされるほどでしたからね。マツダもアウディのような道を辿ることができるか。試行錯誤をしながら種まきをしている状況だと思います」(井元氏)
デザイン・走りのボーダーレス化、新興国向けの低価格車が次々と開発される流れなど、自動車メーカーのトレンドとは一線を画して独立自尊の生き方を選択するマツダ。逆境をバネに生まれ変わることができるか。