選手として三冠王3回、監督して優勝4回、日本一1回。他の追随を許さぬキャリアを誇る野球人にして、中日GMに就任した落合博満氏(59)の主張は、ことごととく正論かもしれない。だが、その“オレ流”は世間から顰蹙(ひんしゅく)を買い、球界の慣例から逸脱しても信念を曲げない強さは、必然的に敵も作った。だが一方で、落合氏は球界関係者も首を傾げる「不思議な人脈」を構築している。
多くの場合、監督は自らの人脈・派閥でコーチ陣を固めることが多い。巨人・原辰徳監督の場合は現役時代に巨人で共に戦ったメンバーを揃えている。
楽天・星野仙一監督も、現チームでは中日の仁村徹氏がチーフコーチ。かつて五輪代表チームでお友達内閣と揶揄されたように、明治大学時代の人脈を厚遇することでも知られている。
しかし落合氏の場合、そうした球界の慣例からすると異色の面々が脇を固める。懐刀の森繁和・ヘッドコーチにしても、前政権の総合コーチで来季の入閣が確実視されている辻発彦氏にしても、プロ時代の落合氏とさしたる接点はない。
バッテリーコーチに招聘すると報道された達川光男氏は、落合氏と同じ東洋大学OB。だが、落合氏は大学野球部の体質を嫌ってわずか半年で退部している。学閥人事とは到底いえないだろう。
落合氏は、一体何を基準にコーチを選んでいるのか。今回、谷繁兼任監督をヘッドコーチとして支える森繁和氏が語る。
「落合GMが声をかける人材の共通点は、“その手腕を買っている”という一点に尽きる。球団の推薦や親しい元チームメートなどという人間関係は全く考えない。たとえば(前政権で打撃コーチを務め、今回もコーチ就任が濃厚といわれる)石嶺和彦氏は、落合GMが現役時代に唯一左投手の打ち方について聞いた選手です。
人間関係で選ぶわけではないからこそ、“期待とは違ったな”というコーチは1年で躊躇せずに切ることもできる。それは冷徹なようですが、逆にいえば実力に対してフェアな評価をしているということ。だから私のような一匹狼が集まってくるのでしょう」
※週刊ポスト2013年11月1日号