モデルから俳優に転向した草分け的存在の草刈正雄。正統派二枚目の代名詞的存在だったが、とにかくそう言われるのが嫌だったと語る草刈の言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が解説する。
* * *
資生堂の男性用化粧品「MG5」のテレビCMで端正な容姿が人気を博した後、草刈は1974年に篠田正浩監督の映画『卑弥呼』で岩下志麻の相手役に抜擢されて本格的に俳優としての道をスタートした。
映画デビュー後の草刈は『神田川』『青葉繁れる』『沖田総司』『エスパイ』と、東宝の映画作品に次々と主演、瞬く間にトップスターになっていった。そして、1977年のテレビシリーズ『華麗なる刑事』での田中邦衛との刑事コンビや1979年の映画『病院坂の首縊りの家』での石坂浩二扮する金田一耕助の助手役でコミカルな魅力を発揮している。
「デビューしてからずっと正統派の二枚目を演じてきたのですが、それに対する抵抗がありました。ちょっと崩した役をやりたい欲求が湧き出てきたんです。勝(新太郎)さんやショーケン(萩原健一)さんの芝居に憧れまして。とにかく『二枚目』と言われるのが嫌で、崩したかった。
そんな時に映画『火の鳥』に出た際、市川崑監督から『君はコミカルな役が向いているんじゃないか』と言われました。それで『病院坂~』で僕のために原作にない役を作ってくれて。こちらも思い切ってやれました。
『華麗なる刑事』も、最初は僕がロス帰りのエリート刑事で邦衛さんは鹿児島出身のイモっぽい刑事という設定だったんですが、僕が段々と邦さん寄りのダサい刑事になっていきましてね。プロデューサーは泣いていたと思います。二人で面白いことをやろうとしているうちに、自然とそうなっていきました。
邦さんには僕の方から『こうしませんか』と提案していきました。あの大俳優が顔色一つ変えずに一緒にやってくれたことには今でも感謝しています。あまりズレていた時は『おい、正雄。これは違うんじゃないか』と言われる時もありましたが」(草刈)
※草刈正雄氏は11月28日より、ミュージカル『クリスマス・キャロル』に出演。東京・シアター1010、神戸・新神戸オリエンタル劇場など全国で公演予定。
文■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか。
※週刊ポスト2013年11月1日号