【書評】『英国一家、日本を食べる』マイケル・ブース著/寺西のぶ子訳/亜紀書房/1995円
【評者】福田ますみ(フリーライター)
食べ物が世界でいちばんまずい国ともいわれる英国から初来日した一家が、札幌から沖縄まで100日間、日本を縦断して食べ歩いたといって、日本料理の何がわかるのか−−と思っていたが、読み始めると、それは予断と偏見だった。
著者、マイケル・ブースは食の素人ではない。パリの有名料理学校ル・コルドン・ブルーで修業した名高いフード・ジャーナリストである。
著者は、同校で知り合った日本人料理人トシから勧められて、辻静雄の『Japanese Cooking : A Simple Art』(講談社インターナショナル刊、初版1980年)を読み、興味をそそられる。今でこそ、フレンチのシェフでさえ、日本料理に影響を受け、「素材そのものに語らせる」「シンプルがいちばん」などとうんちくを語るが、こうした潮流の原点はまさにこの本だった。
さらに著者には、日本料理に惹かれるもう一つの理由があった。ミシュランの星を獲得したレストランを回って食べまくった著者の体形は、タイヤをはめたようなウエスト回りになってしまっていたからだ。友人トシから、「和食を食べたら、たぶん60まで生きるよ」とけしかけられた著者は、衝動的に日本行きを決心したのだ。
ロンドンを飛び立った著者と妻、6才と4才の息子はその日の夜、新宿のデパ地下で、ありとあらゆる生鮮食料品、加工食品、総菜の山に出くわす。そして、思い出横丁にある小さな店で、炭火の煙がもうもうと立ち込める中、焼きそばや焼き鳥を頬張る。
相撲の力士を見て、あの巨大なセイウチのような体を作るには、きっと脂肪だらけの肉にアイスクリーム、フライドポテトやチョコレートばっかり食べているのだろうと思いきや、相撲部屋の見学でちゃんこを振る舞われて驚く。ちゃんこの中身は、たっぷりの野菜に鶏肉、豆腐、豊富な魚介。カロリー過多なフライドポテトやチョコレートはどこにもなかったからだ。
この本は単なる食べ歩きガイドブックではない。味噌の製造過程や昆布漁を見学するくだりでは、著者の日本料理への造詣の深さに脱帽する。著者は英国に帰国後、魚や豆腐を食べみそ汁を飲み、あらゆるものにポン酢や味噌をぶっかけた結果、体重が5㎏減ったという。
※女性セブン2013年11月7日号