銀行は大元を支えてきた預金者をどう見ているのか。実態を探るべく、本誌はかつての名物企画「覆面窓口調査」を復活させた。これは本誌記者が一般顧客として三菱東京UFJ、みずほ、三井住友の3メガバンクの支店を訪ね、接客態度やサービス内容などを覆面調査するものだ。
調査では3行のビジネス街と住宅街にあるそれぞれの支店の窓口に足を運び、「50万円の1年もの定期預金を新規に作成したい」という口座開設申し込みを行なった。
入り口の案内から窓口に通されるまでの「待ち時間」、「接客態度」はもちろん、口座開設までの「所要時間」、口座開設時にもらえる「景品」、さらには翌営業日以降に解約した場合の対応などを徹底的に調査した。今から16年前の1997年に実施した前回の覆面調査と比べると実に興味深い。
当時は「10万円の半年定期」を申し込んだだけで、電卓や時計、ボールペン、入浴剤といった景品がもらえた。しかし、今回はせいぜいティッシュやタオル程度で、景品がない支店もあった。そんなことで不満を覚えるわけではない。何よりも違っていたのは、その接客態度だ。
当時は解約を申し出ると、訝しがったり、不審な表情をしたり、解約理由を細かく聞いてきたりするなど、少なくとも預金者に興味・関心があった。
ところが、今回の調査では、口座を開設後、翌営業日に解約するというイレギュラーな取引だったにもかかわらず、いずれの支店でも極めてスムーズに解約手続きが進められた。スムーズな対応といえば聞こえはいいが、「もはや預金者はどうでもいい」「50万円程度なら解約されても痛くもかゆくもない」といわんばかりなのだ。
今回調査を行なった本誌記者は、まだ20代後半だった16年前も、10万円を握りしめて調査に走った。
年も若く、わずか10万円の半年の定期を作りたいといっても、当時は“こんな若僧がこれっぽっちの金額で何しに来た”といった態度など微塵も感じられなかった。若い行員も、ベテラン行員も笑顔交じりで丁寧な説明を心がけてくれた気がする。解約時には、「解約の理由」や「事情」を根掘り葉掘り聞かれ、不審な顔もされたが、それも預金者の方を向いていることの証左であったのではないか。
ところが、相次ぐ再編や人員削減など厳しい時代を乗り越えたいま、銀行窓口の様相は一変していた。記者も年を重ねて40代半ばに差し掛かり、あの時の5倍の金額を持っていったにもかかわらず、その対応は総じて拍子抜けするほど事務的だった。銀行そのものが激変したことで、そこで働く銀行員たちも変わってしまったのだろうか。メガバンク幹部はこう語る。
「今やいくら預金を受けても銀行員は査定で評価されなくなっていることが大きい。何しろこの超低金利下では、預金は通帳発行や口座管理のコストばかりがかかり、銀行の収益にもつながらない。それよりも投資信託や個人年金保険、直近ではNISA(少額投資非課税制度)といった運用商品を売ってナンボの世界。本来なら50万円を預けてくれたらその先の機会を見越して接するべきなのに、目先に追われてそれもできないのが実情です」
調査中、口座ができるまでの待ち時間で、窓口の行員にNISAについて質問した。サラリーマンなどを多く相手にするであろうビジネス街の支店では、いずれも熱心に説明してくれた。“出資者”たる預金者よりも運用で懐を潤すことが優先のようにも思えてしまう窓口の景色。かつて初任給の口座を開設した時に、行員から「就職おめでとうございます。初ボーナスもぜひ当行にお願いします」と声をかけられたような時代とは隔世の感がある。
※週刊ポスト2013年11月8・15日号