TVドラマ『半沢直樹』(TBS系)の大ヒットによって銀行やバンカーに対する注目が一気に高まった。そもそも銀行の社会的使命は、企業への融資によって「経済の血液」といわれる資金を日本経済全体に循環させ、経済発展のポンプ役を果たすことにある。
しかし、金融危機のさなかの1998年に発足した金融庁(当時は金融監督庁)は、当初から不良債権処理を最優先の目標にしてきた。
経営危機に陥った銀行に公的資金を投入して次々に国有化すると、前述の厳しい金融検査マニュアルを適用して銀行に“貸しはがし”を行なわせ、経済成長にブレーキを踏ませ続けた。
銀行が融資の可否を審査するのは当たり前と思うかもしれないが、『半沢直樹』に登場した黒崎検査官のような“鬼の検査官”が金融庁からやってきて「分類するわよ!」と厳しい検査マニュアルを片手に融資案件を1件1件チェックし、“これは不良債権”とダメ出しをして、銀行が自由に貸し出しできないようにしていたのだ。金融ジャーナリストの小泉深氏が指摘する。
「金融庁の検査官には山一証券や北海道拓殖銀行など破綻した金融機関の人材も採用されている。彼らは検査に入ると、“こんな融資は山一や拓銀よりひどい”などと手を緩めず、厳しく不良債権に査定していった。明らかにやりすぎで、銀行はそれに萎縮して新規融資に臆病になり、企業の将来性を判断してカネを貸し、育てることができる本物のバンカーがいなくなった」
いわゆる“黒崎検査官”タイプの指導で銀行の経営は最悪な形で立ち直ったというのである。
大手銀行は合併を重ねて3メガバンクに統合され、金融庁の「リスクのある企業にはカネを貸すな」の徹底指導によって、黙っていても稼げる「国債運用」と「手数料収入」を経営の柱に据えた“カネを貸さない銀行”へと様変わりした。
その結果、メガバンク3行は公的資金を完済したうえ、いまや3行合わせて年間3兆円を超える利益を稼ぐ超リッチ企業になったが、日本経済のポンプ役という重要な役割は大きく低下した。
こんなやり方ではアベノミクスで金融緩和しても、企業にカネがまわらない。そこで安倍政権は銀行融資を増やすように金融行政の転換を指示し、金融庁は渋々ながら、監督方針転換と検査の緩和に踏み切ったのである。
それが、この9月に行なわれた金融行政の大転換だ。金融庁が銀行への監督方針を一変させ、これまでのようにマニュアルで縛りつけるのではなく中小企業への融資の判断は銀行側に任せるという方針を打ち出したのだ。
※週刊ポスト2013年11月8・15日号