【書評】『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』詩歩/三才ブックス/1365円
【評者】徳江順一郎 東洋大学准教授(ホスピタリティ)
一言で言えば「旅行ガイドブック」。しかし、かつては誰もが旅行に行く際に手に取っていたであろう、「北海道」や「九州」、あるいは「フランス」や「アメリカ西海岸」といった国や地域ごとのガイドブックではなく、「世界」中の、しかも「絶景」を軸として集めたガイドブックという点で興味深い存在であるといえよう。
この本に掲載されている場所は、誰もが知っていて、一度は行きたいと思っていた場所では決してないかもしれない。その意味では、いわゆる有名観光地を集めたガイドブックではない。ところが、写真を見れば、誰もがその場所へ行きたくなることは間違いない。
このような一定のテーマに沿った形でのガイドブックは、近年よく見られるようになってきたが、その中でも本書は2つの意味で特異な存在だ。
一つには、本書がソーシャルメディアのFacebook上で、著者が「行きたい」と思った場所をまとめたページが基となって構成されているということである。必ずしも著者が行ってよかった場所というわけではないのだが、一方でSNSの特性を生かし、「友達」による「いいね!」の数によって一定の序列もつけられ、現在でも当該ページは更新し続けられているところが興味深い。
もう一つは、一般に写真を多用したガイドブックは、プロのカメラマンによって撮られた写真が基になり、上質紙を用いて印刷されることが多いが、本書で用いている写真はプロが撮ったものではないうえ、紙も決して写真に最適な上質紙というわけではないということである。その背景には、東日本大震災後の東北の復興という隠れたストーリーも見え隠れしているが、素朴な感覚がむしろマッチしているように思える。
昨今のわが国は豊かになり、観光も大衆化している。そのために旅行会社のパッケージツアーはどこも同じようなものになってしまっているが、ここに載っているのは、ウクライナの「クレヴァニ 恋のトンネル」や茨城県の「ひたち海浜公園」、山口県の「角島」など一般的なツアーではそれほど頻繁に登場することのない場所ばかり。それでいて簡単な旅のプラン例もつけられている。本書は、新しい時代の観光を切り開くきっかけになるかもしれない。
※女性セブン2013年11月14日号