都内に住む中田弘美さん(仮名、35才)は最近、義父(69才)の様子がおかしいと感じている。外出したまま道がわからなくなって家に戻ってこられなくなったり、もの忘れしたことを他の家族には黙っておいてほしいと夫に言ったりする。
弘美さんは「もしかして認知症では」と心配になり、義父の受診を夫に勧めたが、「歳なだけでたいしたことない。本人も嫌がっているし」と聞く耳を持たない。そうこうするうちに症状が進行するのでは、と弘美さんは不安に感じている。
実は筆者にも悩んだ経験がある。関西に住む両親とは電話で定期的に連絡を取っているが、2年ほど前、母がついさっき話していたことと同じ内容を繰り返し話すことに気づいた。最初はただのもの忘れだと思って気にしていなかったが、似たようなことが続くうえ、日付を間違え、最近の記憶が混乱するようになってきた。食事したことを忘れたり、やたら財布のありかを心配したりするようになった。
このように、家族や身近な人の様子が以前と違い、何か変だと思うことがあったら、それは認知症かもしれない。
厚生労働省の調査によると、今や認知症患者は、軽度の人(軽度認知障害=MCI)も含めると約862万人で、高齢者のほぼ4人に1人の割合となった。身近に認知症の人がいることは、“当たり前”の時代になっている。
「夫が定年後、もの忘れがひどくなって、なんだかおかしいとは思っていたけど、私たち家族も『歳をとったら誰にでもあること』と深く考えていませんでした」
兵庫県西宮市内に住む戸牧一枝さん(72才)の夫・徳義さん(74才)は今から10年前、アルツハイマー型認知症を発症した。
「当時は『認知症』という言葉も今ほど聞かなかったので、まさか自分の家族がなるとは思っていなかったです」(一枝さん)
認知症は早期に発見して適切な医療と介護を提供すれば、進行速度を緩めたり、症状を穏やかにすることができる。
夫の徳義さんは診断を受けてから約9年が経つ。現在は症状がかなり進行し、ほぼ意思疎通のできない状態だ。先日、一枝さんは、45才で若年性認知症と診断された男性(51才)が、大勢の人の前で講演する姿を見て、ショックを受けた。
「初期のころに良いケアを受けていれば、6年経ってもこうして人前に出て話したりすることができるんだ、認知症でもこんなに進行に違いが出るのかと思いました。主人が最初の頃に『変かもしれない』と言ってくれていたらとも思うけど、男の人はプライドもあるし、なかなか言いませんよね。私も早く気づいてあげていたら、もう少し何かできたのではと思います」
と一枝さんは悔やむ。神奈川県川崎市で認知症介護サービスを提供しているNPO法人「楽」の理事長・柴田範子さんは、こう強く訴える。
「身内が認知症になることを認めたくない気持ちは、非常によくわかります。でもその結果、本人も家族も後で大変になってしまうのです。
認知症に大事なのは、早期発見と早期対応。特に身近な家族のかかわり方が、本人の状態や病気の進行に大きく影響します。
認知症は、患者の生活上の困難にさえ周囲がうまく対応していけば、本人は幸せに暮らせて、病状や進行も穏やかということが多い。でも、つい患者を批判してプライドを傷つけたり、尊重しないかかわり方を続けると、病気の進行が早くなることもあります」
※女性セブン2013年11月14日号