歴史的なヒット作の後釜ゆえ、数字の行方が違った意味で注目されてしまう作品。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏の解釈はこうだ。
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キムタク主演「安堂ロイド~A.I. knows LOVE?~」(日曜21 時TBS系)が、話題を集めています。突っ込みどころ満載、クビをかしげる内容などと評され、随所でチャチャを入れる声がネット上に溢れている、という奇妙な意味で…。
初回は19.2%だった視聴率も、第3話は13.2%まで下落。そもそも、人工知能を示す「A.I」という単語に古くささ感じてしまったのは、私だけではないはず。
1980年代前半、日本でも「A.I」=Artificial Intelligence、人工知能研究のブームがおこりました。当時、この言葉に感じたロマンや未来、スリリングさも今は昔。
それでもあえて、「A.I」という言葉を今掲げるのだから、何か特別な「ねらい」があってのこと。勝手にそう解釈し期待していたドラマでした。
しかし、蓋を開けると……劣化したキムタクのお肌ばかりが気になってしかたがない。
キムタクは研究者・沫嶋黎士と人工知能を持つ人型ロボットの安堂ロイド、1人2役を演じています。主人公・沫嶋黎士は早々に殺され、彼にそっくりのアンドロイドが出現。頭の中にOSが搭載されていて、クライアントの意向に従い、一人の女性の命を守るため次々に相手を殺していく。
その役割を終えると、充電時間。ただの「物体」に戻る。手足がダランと伸びた、でくのぼうに。これって、古色蒼然としたロボットのイメージではありませんか? 使い古されたSFものと、どう違うのでしょう。
なんて思うとストーリーになかなか没入できず。私の妄想はどんどん膨らんでしまう。キムタクが大写しになる度に、「あー誰かに似ているなぁ」と余計なことばかり考えてしまう。
今、誰に似ているかが自分の中ではっきりしました。「ヨンさま」です。
女性的な丸みを帯びた輪郭。ぼよんとした頬、長く伸ばしパーマをかけた髪、縁のあるメガネ。いよいよヨンさまの領域に達した、オバさん味漂うキムタク・アンドロイド。激しく闘うヒーロー像としては、ちょっとつらいものがありますが。
そうは言っても、このドラマには輝くような魅力もたしかに存在しています。キムタクの相手役・安堂麻陽を演じる柴咲コウに、目を奪われてしまう。
シャープな美しさをたたえている、瞳や輪郭。以前よりも大人の落ち着きが増した横顔。しかし、その合間にふと見せる表情が、実にチャーミング。かわいらしさの中に気品が漂う。
「この人の透明感も誰かに似ているなあ」とぼんやり感じていたのですが、わかりました。オードリー・ヘプバーンです。
ということは、「安堂ロイド」は、ヨンさまとヘプバーンが共演する究極のSFラブストーリー? まあSF的奇妙なひねりを効かせるよりも、「冬ソナ」か「ローマの休日」のように、旧来の王道ラブストーリーを、二人にきっとり演じていだたいた方がよかったのかも。
もの静かで深い、大人の恋を描くドラマの方が、二人の年齢にも時代にも、合っていたのかもしれません。
とはいえ、「安堂ロイド」の物語はまだまだ続く。後半のドンデン返しに期待しましょう。