芸能

大谷昭宏氏 「母は病院で10チャン見るよう懇願して回った」

 母はどんな時も無償の愛で包んでくれた。その偉大さを知ったのはいつのことだったか。慈母の記憶はいつも、懐かしい温もりとともに甦る。ここでは、ジャーナリストの大谷昭宏氏(68)が母・愛子さんとの思い出を振り返る。

 * * *
 男の子にとって、いくつになっても母親というのは偉大なもの。特にウチの母は厳しいというより、しっかり者だった。

 我が家は姉2人と弟の4人兄弟で、父は銀座のテーラーの洋裁職人。ただ母は、子供たちには父のように手に職をつけるということではなく、しっかりとした教育を身につけさせたかったようだ。

 特に男に対してはそう考えていたのか、それほど豊かでない家庭だったのに、私は小学校の頃から家庭教師をつけてもらっていた。教育ママということではない。私が子供の頃から新聞記者になりたいという夢を持っていたことを知っており、好きな道を進むためには「教育」が必要という考えだった。

 母はずっと変わらなかった。私が40歳のおっさんになっても、「よく噛んで食べなさい」といってきたことがある。さすがに怒ったが、母にとってはいつまでたっても倅は倅なんだろう。

 母は93歳まで長生きしてくれたが、最後は少し認知症が出たこともあって入院し、病院で亡くなった。亡くなる前に見舞いに行くと、滅多に顔を出さない親不孝息子なのに、何人もの看護師さんから「10チャンネルの人が来た」といわれた。

 事情を聞くと、母がしきりに「テレビは10チャンネルを見てやってね」とお願いして回っていたらしい。10チャンネルとは、当時私が出演することが多かったテレビ朝日のことだ。何歳になっても親は息子のことが気になるのかと、この時ばかりは親不孝を恥じた。

 テレビといえば、私をテレビで見た後に、母が「今日は声がかすれていたが体は大丈夫か」といってきたことがある。母も心得たもので、直接だと私が鬱陶しがると思い、姉を通じて伝えてきた。私も姉を通して「大丈夫」と返答した。

 男性にはわかってもらえると思うが、母と息子というのは、互いに心配していても、娘のように直接いえない独特の距離感がある。こういったことは亡くなってから実感するが、何歳になっても母親はありがたいと感じたものだった。

■大谷昭宏(おおたに・あきひろ):東京都生まれ。1968年、読売新聞社に入社。その後独立し、各種メディアで活躍。

※週刊ポスト2013年11月8・15日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン
ソロとして音楽活動5周年を迎える香取慎吾
《ソロで音楽活動5周年》香取慎吾が語った「5人とは違って…」「もっとできるはずなのに」ソロで経験した“挫折” ライブツアーでは「パーフェクトビジネスアイドル」としてファンを沸かせる
NEWSポストセブン
13年ぶりの写真集『ふたたび』(双葉社)を5月30日に発売
小向美奈子 Xで「今年結婚します!」投稿の真意を本人に聞いた 今でも「年に1~2回くらいは求婚される」と語る彼女は“ダーリン”との未来予想図をどう描くのか
NEWSポストセブン
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
NEWSポストセブン
6月3日に亡くなった長嶋茂雄さんとの写真を公開した大谷翔平(公式インスタグラムより)
《さようなら長嶋茂雄さん》大谷翔平から石原裕次郎まで、誰からも愛された“ミスター”の人生をスターたちとの交流で振り返る 
女性セブン
沖縄を訪問される天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年6月4日、撮影/田中麻以)
《愛子さま 初めての沖縄ご訪問》ブルーのセットアップで母娘の“おそろい”コーデ再び! 雅子さまはくすみカラーで落ち着いた着こなしに
NEWSポストセブン
人気インフルエンサーがレイプドラッグの被害者に(Instagramより)
《海外の人気インフルエンサーが被害を告発》ワインに“デートレイプドラッグ”が混入…「何度も嘔吐し、意識を失った」「SIMカードが抜き取られていた」【オーストリア】
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平が帰宅直後にSNS投稿》真美子さんが「ゆったりニットの部屋着」に込めた“こだわり”と、義母のサポートを受ける“三世代子育て”の居心地
NEWSポストセブン
『激レアさんを連れてきた。』に出演するオードリー・若林正恭と弘中綾香アナウンサー
「絶対にネタ切れしない」「地上波に流せない人もいる」『激レアさんを連れてきた。』演出・舟橋政宏が明かす「番組を面白くする“唯一の心構え”」【連載・てれびのスキマ「テレビの冒険者たち」】
NEWSポストセブン
「ミスタープロ野球」として広く国民に親しまれた長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
《“ミスター”長嶋茂雄さん逝去》次女・三奈が小走りで…看病で見せていた“父娘の絆”「楽しそうにしている父を見るのが私はすごくうれしくて」
NEWSポストセブン
現場には規制線がはられ、物々しい雰囲気だった
《中野区・刃物切りつけ》「ウワーーーーー!!」「殺される、許して!」“ヒゲ面の上裸男”が女性に馬乗りで……近隣住民が目撃した“恐怖の一幕”
NEWSポストセブン
シンガポールの元人気俳優が性被害を与えたとして逮捕された(Instagram/画像はイメージです)
避妊具拒否、ビール持参で、体調不良の15歳少女を襲った…シンガポール元トップ俳優(35)に実刑判決、母親は「初めての相手は、本当に彼女を愛してくれる人であるべきだった」
NEWSポストセブン