ライフ

自然な最期を迎えたい大多数が自室ベッドで息引き取れぬ理由

 老人ホームは本来「終のすみか」であるはずだが、入居者の多くは病院で亡くなる。なぜか? 約200人の看取り経験ある特養ホーム常勤医で『平穏死のすすめ』著者の石飛幸三氏が日本が「看取り後進国」である理由について語る。

 * * *
 老人ホームは最期の時が近づいていることを悟った人が来る施設です。ならば、「看取ること」こそ、ホームの使命であるはず。しかし、自然な最期を迎えようとしている8割の人が、ホームの居室ではなく、病院に送られて亡くなります。それも、多くの管につながれ、痛み苦しんで、最期は意識も半ばの状態です。
 
 高齢者の約8割は、過剰な延命治療をせず、自然に亡くなっていきたい、つまり「平穏死」したいと希望しています。ではなぜ、大多数の人が自室のベッドで息を引き取ることを許されないのか。
 
 理由のひとつは、施設側の責任逃れです。まだ息がある段階で治療をストップすると、ホーム側が保護責任者遺棄致死罪や殺人罪に問われる可能性がある。入居者本人が平穏死を望むという事前指示書「リビング・ウィル」に署名していても、家族に訴えられれば、法的には施設側に有利になるわけではありません。
 
 だから、多くのホームでは施設内での看取りを嫌がり、病院に責任を押し付けるのです。病院も、体力が落ちて食事を摂りにくくなった人が誤嚥しては大変なので、たった15分間の手術で胃ろうを施す。そうして、ますます体力が落ち、薬漬け、管だらけになって、死ななければならなくなる。
 
 いろんな人が責任回避した結果、日本が世界で稀にみる「看取りのできない国」になってしまったわけです。
 
 認知症で自分自身の状態がわからず、食べられなくなっても管で栄養を流し込まれ、無理矢理に生かされる。それは本当に幸せなことなのでしょうか。本人だけでなく家族も、「医療の限界」と「本人の死期」を真剣に考える必要があります。
 
 幸い、徐々に「平穏死」の考えも広がりつつある。私の勤める特養ホームでは約9割が施設で亡くなり、病院に死にに行くこともなくなりました。もっとそういうホームが増えてほしいと考えています。

※週刊ポスト2013年11月8・15日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン