昨年は中国発の大気汚染物質「PM2.5」の飛来に日本中が恐怖したが、北京を訪れたジャーナリスト・相馬勝氏が、現地の大気汚染の深刻さについて、レポートする。
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「今年の夏は晴れの日が多かったが、ほとんど太陽を拝むことができなかった。原因の大半は車の排気ガスですよ」
と迎えの良好会社社長氏は憤ってみせる。
北京に限らない。上海や広州などの大都市はもちろん、内陸部の中小都市でも大気汚染は深刻化しており、2010年に大気汚染が原因で死亡した国民は123万4000人と推計されている。これは全死者の15%にも及ぶ。呼吸器系や脳、心臓の疾患も増えている。
市民も最近は環境汚染に敏感で、工場の排煙のほか、河川の水質汚染の原因となる有害な廃棄物の垂れ流しに抗議するデモが毎日のように起きる。日本の製紙業トップ、王子製紙の江蘇省南通の工場建設が昨年7月、住民の大規模反対デモで中止に追い込まれたことは記憶に新しい。
中国政府も民衆の動向には神経を尖らせており、対策を次々と打ち出してはいる。筆者が北京滞在中の9月13日、政府は大気汚染防止対策の10か年計画を発表。エコカーやハイブリッドカーの積極的な導入、ガソリンの燃費が悪い老朽車の廃止、さらに、日本やEUなど先進国並みにガソリン品質の向上を図るなどの対策をぶち上げた。
北京市政府も同日、2017年までの5か年計画を公表し、100万台の老朽車の廃棄やガソリンの品質基準の見直しなど抜本的な対策を示した。5年間で2000億~3000億元(約3兆2000億~4兆8000億円)を投入する。
習近平・国家主席ら中国共産党指導部にとって、大気汚染の防止は単なる環境問題にとどまらず、民衆のデモや暴動を未然に防ぐ重要な治安対策でもある。
とりわけ、最近はガソリンの品質が問題視されている。日本やEUで採用されている現在の欧州排ガス規制「ユーロ5(硫黄含有量10ppm以下)」に対し、中国で売られているガソリンは硫黄含有量150ppm以下の「ユーロ3」レベルだ。
これをEUや日本並みに厳しくするのに伴い、中国の石油会社は大規模投資を強いられる。一説では、業界で500億元(約8000億円)ともいわれる利益のほとんどが石油精製工場の改修や新設で消えるとの試算もある。
※SAPIO2013年11月号