要人へのハニートラップや男児眼球くり抜き事件など、中国で女性が事件の中心に座る例が増えている。中国人女性が暴走し、過激に振る舞う理由をジャーナリストの富坂聰氏が分析した。
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日本でも驚きをもって報じられた「目玉くり抜き事件」に限らず、信じられないような力業の犯罪を中国人女性はこれまでもたびたび起こしている。有名なのは1990年代に1組の姉妹が起こした連続強盗殺人事件だ。当時、高級車が運転手ごと消える事件が十数件連続して発生した。逮捕された姉妹はたった2人で高級車を奪うために運転手を次々に殺害していた。
女性たちがそのような事件を起こす背景には、社会保障や公権力がまっとうに機能していないことがある。日本では困ったときに「とりあえず役所に相談しよう」とか「警察に通報しよう」となるが、中国ではコネがなければ誰も何もしてくれない。
自分で何とかするしかない社会だ。そこで女性にも「問題解決能力」が求められる。そういえば響きはいいが、いざとなったら罪を犯してでも生活費を稼ぐ、いざこざは力で解決する、という覚悟が備わっているのだ。貧富の格差が拡大したことで、そのような女性の特性が刺激されているのは間違いない。
もうひとつ、日本ではあまり見られない光景として、政治家や高級官僚の妻や愛人が権力をほしいままにするケースがある。
記憶に新しいところでは、失脚した薄熙来の妻、谷開来だ。夫の権力を背景に手広くビジネスを展開。トラブルになった英国人ビジネスマンを重慶市のホテルで殺害して、執行猶予付きの死刑判決(事実上の終身刑)を受けた。
夫の薄熙来も汚職で無期懲役の判決が下された。女性の権力のピークは男の権力のピークとシンクロしている。男の力を背景としているのだから当然だ。
古くは毛沢東の妻、江青。「四人組」の一人として文化大革命を主導し、次々とライバルや目障りな人間を処分していったことはあまりに有名だ。
同じく文化大革命を利用して権力をほしいままにした女性として葉群がいる。林彪の妻であり、息子の林立果とともに毛沢東暗殺計画を企てたとされる。
女性が男の権力を利用して権勢を振るうのは、中国社会が実は「正攻法」では女性が権力の座につけない社会であることの裏返しだ。
これまで共産党のなかで政治局常務委員に女性が一人もいないことからもそれは明らかだ。胡錦濤体制のとき、中国の「鉄の女」と言われた呉儀は常務委員の候補と目されたこともあったが、結局なれなかった。また、習近平体制発足時にも女性の劉遠東の登用が検討されたが、実現しなかった。「男を手玉に取る女」はそうした環境で生まれる。
※SAPIO2013年11月号