高齢者の4人に1人が認知症というこの時代。大事なのは、早期発見だという。
「認知症で早期発見・早期対応が大事な理由のひとつは、初期における家族の対応が、その後の病状を大きく左右するからです」
と語るのは、神奈川県川崎市内で認知症介護サービスを提供するNPO法人「楽」理事長の柴田範子さんだ。
「例えば本人が『ペンがない』と言って探し始めた時、毎度のことであっても『一緒に探そう』と言ってあげると本人は安心します。でも『今、必要ないでしょう!』と怒ったり、イライラした態度を見せると、“この人は怖い人”と思って抵抗したり、恐怖から暴力をふるったりすることもあります」(柴田さん)
認知症は、頭の中で物事をうまく整理したり言葉にしたりできなくなる脳の病気だ。このため、「怖い」と思ってもどうしていいかわからず暴力的になったり、怒鳴ったりすることがある。人格が暴力的になったのではなく、そうすることでしか気持ちを表せないのだ。
柴田さんによれば、認知症の初期においては、本人は“自分がどこかおかしい”と感じてはいるが、理由がはっきりわからないため、今後どうなるのかと、不安と恐怖でいっぱいになっているのだという。このため、早い時期に本人が安心して過ごせるようにすれば、気持ちが安定するので病気の進行も穏やかになる。逆に、プライドを傷つけるような態度を周囲がとると、病気の進行が速くなることもある。認知症は、家族関係が悪い人ほど、進行が速いといわれるのだ。
早期に気づいて受診し、介護認定を受ければ、介護保険サービスを使えるようになる。そのためには、住まいの地域にある地域包括支援センター(介護支援専門員、社会福祉士、保健師が常駐する介護・福祉のよろず相談窓口)などを訪ね、介護計画を作ってくれるケアマネジャーを探すといい。初期に必要な医療や介護サービスを考えてくれる。
治療の点でも意味がある。現在まだ認知症を根本的に治療する薬はないが、「アリセプト」「レミニール」などのアルツハイマー型認知症治療薬は、病気の進むスピードを抑える。
初期に服薬を始めるほど、“症状の穏やかな時間”を引き延ばせるので、その間に家族は今後の生活や介護の方針を考えたり、心の準備もできる。気分の落ち込みや徘徊、幻覚など周辺症状(BPSD)を緩和する薬もあり、適切に処方すれば症状が重くなる前に改善できる場合もある。認知症のひとつ、レビー小体病の発見者として有名な小阪憲司医師(メディカルケアコートクリニック院長)は、
「薬に対して過度な期待は必要ないが、症状の進行を穏やかにしたり、周辺症状を緩和するものもあるということはわかってほしい。また家族にとっても、薬をのむことで安心することもあるでしょう。認知症には正しい診断と、早い時期の薬の処方が大事。早期に気づいて対処すれば、その後の経過はずいぶん違う」と話している。
※女性セブン2013年11月21日号