勢いのあるドラマには、何かしら「発見」があるものだ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が注目しているのが、朝ドラでいい味を出している新人俳優である。
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朝ドラ「ごちそうさん」が始まって1ヶ月あまり。スタート当初は、前作「あまちゃん」のフィーバーぶりに、次作はかなり苦戦するのではと不安も囁かれていましたが……。1ヶ月経過した「ごちそうさん」は大健闘。視聴率が27.3%を記録し(10月16日)、前作「あまちゃん」の最高視聴率を上回ったとか。
そして舞台は大阪へ。悠太郎(東出昌大)と恋愛し、幸せな結婚生活を目指していよいよ食いだおれの街へ移った主人公・め以子(杏)。大阪の街でたくましく生きる庶民の世界が、いきいきと描かれています。
当時の街の雰囲気、市場の賑わい、店の木彫り看板、台所の漆器や陶器、おくどさんで火を扱う様子……。細かい部分に演出の手抜きがなく、描写が丁寧です。
でも、何と言っても、ドラマ世界を安定させている軸は、この人ではないでしょうか? 悠太郎演じる東出昌大くん。
バリバリの新人さん。メンズノンノ専属モデルオーディションでモデルになり、2012年の映画「桐島、部活やめるってよ」で役者に初挑戦した人とか。
悠太郎は、口数は多くない。過剰なリアクションや作った表情もない。前作の登場人物たちのように、笑わせようと大騒ぎして、視聴者に媚びたりしない。物静かで芯が通っている。そこがいい。堂々と背筋を伸ばして、どっしりと構えています。
お世辞にも演技が上手とはいいませんが、演技歴などには関係なく、落ち着いたちょっと古風な物腰が、「ごちそうさん」世界をしっかりと支えています。
それはある意味、古き良き日本男児の正当派。でも、亭主関白風を吹かせて偉そうに指示したりしない。め以子の最高の理解者なのです。
居そうでいなかった、悠太郎像。東出くんの父親は剣道の先生でご本人も剣道三段の腕前とか。背骨がぴりっと伸びているのは修行のおかげかも。その爽やかさ、今の時代の空気と響きあっている。女の子にひたすら優しい「草食系」でもないし、一昔前のオレに付いてこい的な「肉食系」とも違う。野菜系でもなく、動物タンパク系でもない。そうです。東出くんの古風な魅力は、「昆布系」。
ちなみに、味の基本をご存じでしょうか。基本味は5つ。甘味、塩味、酸味、苦味、うま味です。「昆布のおいしさ」である「うま味」が発見されたのは約100年前。東京帝国大学の池田菊苗博士によって発見された「うま味」は、今や世界中に広がり、「umami」として国際的に認められました。
東出くんの雰囲気は、うま味に支えられた「昆布系」と言っていいでしょう。というように、食べることをテーマにしたこのドラマの軸はぴしっと通っています。
ただ最近は、め以子をネチネチいじめる悠太郎の姉のいけずな顔を朝から見たくない、という意見も聞かれたり。私個人としては、演出上のこととはいえ、お膳をひっくり返したり、手づかみで食べたりするのだけはやめて欲しい。と、つっこみどころはまだありますが、それは次回に。