医療費が高く、貧乏人は満足な治療が受けられないのが当たり前というアメリカ。皆保険制度がないのが原因と言われるが、その制度を改革しようとした“オバマケア”が原因で米政府は混乱を続けている。
長野県の諏訪中央病院名誉院長でベストセラー『がんばらない』ほか著書を多数持ち、最近『○に近い△を生きる 「正論」や「正解」にだまされるな』(ポプラ新書)を上梓した鎌田實氏が、アメリカの医療保険について解説する。
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アメリカが揺れている。債務不履行は回避したが、この間の政府一部閉鎖によって米経済は2兆円を損失、経済成長率を0.6%押し下げる予想だ。なぜ政権与党の民主党と野党共和党が泥沼の闘いを繰り広げるのか。
医療保険制度改革“オバマケア”がその原因である。アメリカには国民皆保険制度がなく、無保険者がなんと5000万人もいる。アメリカの診療は自由診療が基本なので、国民約3億人のうち半数は企業が加入している民間保険に入っている。勤めていない高齢者はメディケア、貧困層はメディケイドに1965年から加入するようになった。さらにこれ以外の国民の2割が無保険になるリスクが高いという現状だ。
日本でも医療保険は資本主義のルールに従って、自由競争にしたほうがいいという意見も多い。普通に考えれば、自由競争を促すと、良いものが安く手に入るようになるのだが、医療の世界では別のことが起きる。
自由な競争をしたことで、アメリカでは医療費が高騰してしまった。実に日本の約2.5倍の医療費がかかっているのだ。
医療費高騰の最大の理由は、診療報酬を医療機関が自由に決められるから。日本では、中央社会保険医療協議会という厚生労働省の諮問機関が診療報酬を決めることで、医療費高騰に歯止めがかかっているのだが、アメリカでは各々の医療機関任せなのだ。
またアメリカでは医療過誤訴訟に備えて医師が加入する保険料が高く、その保険料のために患者が支払う医療費も高騰していく。
さらに生活習慣病の急増で医療費がかさみ、医療技術の高度化がまたもやコストを上げる結果になっている。普通、医療費をかければ健康で長生きになるはずなのに、突出してアメリカは医療費が高いわりに、寿命は延びていない。
オバマ大統領は無保険者をなくすよう、国民に保険加入を義務付け、企業にも保険負担の義務を課した。共和党は10年間で約93兆円にも達する“オバマケア”関連費用がアメリカの財政を圧迫すると主張して徹底抗戦に出たのである。
※週刊ポスト2013年11月22日号