日本シリーズで優勝し日本一となった楽天。正捕手としてマー君ら投手陣を引っ張ったのが、嶋基宏捕手(28才)だ。
「見せましょう、野球の底力を!見せましょう、野球選手の底力を! 見せましょう、野球ファンの底力を! ともにがんばろう東北、支え合おう日本!」
東日本大震災直後の嶋の名スピーチは、2011年の流行語大賞にもノミネートされるなど、多くの国民の心を動かした。
しかし、野球の実力以上にひとり歩きした名スピーチが嶋を苦しめた。
「底力を見せるのはお前のほうだろ!」
震災の影響からコンディション不充分のまま開幕を迎え、チームは低迷、そして自身の不振なども重なり、こんな心ないヤジが嶋に浴びせられた。正捕手として試合に出続ける傍ら、選手会長としてチームの先頭を切って被災地を訪れるなど、嶋の体は精神的にも、肉体的にも悲鳴を上げ、円形脱毛症になったこともあった。
しかし、そんな苦悩する嶋を救ったのは被災地の子供たちだった。嶋が慰問に訪れた東松原市の矢本第二中学校の安田淳先生がこう話す。
「講演会で、子供たちから“苦難はどうやって乗り越えますか?”という質問が出たんです。すると嶋選手は“目標を設定して、将来のためになっていると思えば、途中で投げ出したりせずに努力は続けられます”と後ろ向きになっていた子供たちを勇気づけてくれました。
その講演会後、子供たちは“嶋選手みたいになりたい”“イーグルスの選手になりたい”なんて目を輝かせるようになりました。嶋選手には、本当に感謝しています」
今でも定期的に被災地の子供たちを球場に招待するなど、支援活動を続けている。
「震災前は、何となく試合に入ることもあった。被災地の人を招待したりするときは特に気合が入る。年間で1試合しか見に来られない人もいるんだと思うと、やっぱり無駄にはできないと思って試合に臨むようになりました」
あるインタビューでこう語っていた嶋。東北の絆、そして東北の底力こそが、今回の日本一につながったのだ。
※女性セブン2013年11月21日号