まるで小さな虫が羽音を響かせるように室内を飛び回る、極小サイズのヘリコプター。シャツの胸ポケットにすっぽり収まってしまうこのラジオコントロール(以下RC)ヘリコプターが、玩具店やネット通販で売り切れ続出。購入しているのは、かつて「ラジコン少年」だった大人たちだ。
全長約8センチ、重さわずか11グラム。シー・シー・ピーの『ナノファルコン』(4704円)は、「世界最小サイズのRCヘリコプター」として、ギネスブックにも認定されている。
「小型のRCヘリコプターは珍しくないですが、狭い室内で8の字飛行ができるモデルは、世界中でも、そう多くはないでしょう」
自信たっぷりにそう話すのは、『ナノファルコン』の商品企画を進めてきた、仙田潤路。同社の顧問だ。
仙田は筋金入りのラジコン少年だった。小学生の頃、2本のワイヤーで操作するエンジン付き飛行機を無線で操縦しようと改造を試みた。また、友人が父親から買ってもらった高価なRCカーを、内部の仕組みが知りたいからと分解し、再起不能にしてしまったこともあったという。
1972年に玩具メーカーのバンダイに入社。だが当時バンダイではRC製品は扱っていなかった。仙田はRCへの思いを封印しつつ、テレビゲームの開発などに携わった。
2006年、そんな仙田に転機が訪れた。RC製品を取り扱うシー・シー・ピーが、バンダイのグループ会社になったのだ。だが、かつて年間売り上げ100億円を誇ったRC市場は、70億円規模に縮小してしまっていた。
仙田が切り札として考えたのは、「世界最小のRCヘリコプター」である。同社には全長10センチの室内用ヘリ『ミニビー』もあったが、さらに小さな製品の開発を指示したのだ。
仙田のリクエストに、商品開発を担ってきた香港のメーカー、シルバーリット社は難色を示した。
3か月後──。再び香港に飛んだ仙田は、シルバーリット社の社長に「見せたいものがある」といわれた。彼が鞄の中から取り出したものはなんと、『ミニビー』よりわずかに小さいRCヘリコプターの試作品。彼も、簡単に諦めていたわけではなかったのだ。仙田は飛び上がらんばかりに喜んだ。
「すごいじゃないか! でも、もっと小さくしてくれ。目標は全長8センチ。誰が見ても『小さい!』と驚くサイズだ」
さらに3か月後──。約束通り、香港から超小型のRCヘリコプターが届けられた。全長わずか8センチ。この極小サイズを実現するためにモーターや基板、バッテリーのすべてに大胆な小型軽量化が図られていた。
「サイズが変われば重量配分のバランスも変わり、安定した飛行が難しくなります。小型化は簡単な作業ではないのです」
シルバーリット社はこの超小型RCヘリコプター『ナノファルコン』を、「世界最小サイズのRCヘリコプター」として、ギネス世界記録に申請。見事、認定された。
■取材・構成/中沢雄二(文中敬称略)
※週刊ポスト2013年11月22日号