20年ほど前から廃墟となった施設や学校、鉱山などを訪ねて回るマニアが増えている。現在営業中でもあるにもかかわらず生きる廃墟として注目を浴びている滋賀県大津市のショッピングモール「ピエリ守山」のような場所もある。その「ピエリ守山」を作家の山藤章一郎氏が訪ね、いま訪れる人たちの様子を報告する。
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「8月18日をもちまして」「9月5日をもちまして」「諸般の事情により閉店のやむなきに至りまして」と貼り紙がある。空き店舗の多くは、売り場だった空間をネットで囲って、立ち入りを塞いでいる。〈無印良品〉も〈ABC MART〉も「あぶないから入ってはいけません」とネットに吊るしている。
行けども行けども、がらんどうの空き店舗。もぬけのから、さもなくば陳列棚の骨組みだけが取り残されている。
「なるほど。明るい廃墟か」と爺さんが呟く。婆さんが追う。「明るいなんて嘘ね。寒々としてるわ。あの熱気がこうなったんですか。誰も乗らないエスカレーターが延々とまわり続けてるんですね」
「こんにちは」またこんにちは。何人かの見学老人に会う。爺さんがスマホを向けている。
「わし毎週、定点観測に来てまして。次は老人ホームになるとか、〈コストコ〉が来てくれたらええとか、みんないうが。そうならんうちに。〈世界 負の遺産〉ですわ」
館内に入ったときから繰り返しアナウンスが流れている。
「ピエリ守山における撮影は禁止とさせていただいております」
若い衆も子連れも、少しいる。スマホを構え、首にカメラを提げ、全員が〈廃墟見学者〉である。〈廃墟〉を2ちゃんねる、YouTubeにスレッドされたために、撮影は神経質なほど禁じられている。だが爺さんは遠慮会釈がない。
「ツワモノドモガ ユメノアトなかなか見られまへんで」カシャッ。
6店のうちのひとつの店の店長に声をかけた。匿名で答える。
「〈廃墟ツアー〉に来とる人ばっかりです。ほとんど年寄り。ここはもう、死んどるんです。でも、今日は2万、まあ売り上げがなくはない。ショッピングモールって、キーテナントが抜けたあとはこう終わっていくんですね。まさか〈廃墟マニア〉に店を写されるとは思ってませんでした。まじめに思います。ここ〈高齢者モール〉にしたらどうでしょう」
※週刊ポスト2013年11月22日号