お金はかかるが世界最先端の治療が可能な米国で寿命は伸びず、逆にあまりお金をかけていない日本は長寿国だ。長野県の諏訪中央病院名誉院長でベストセラー『がんばらない』ほか著書を多数持つ鎌田實氏が、お金と寿命の相関関係について解説する。
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医療にお金をかければ正比例して寿命は延びるはずだ。なのにアメリカでは寿命が延びていない。逆に日本はあまりお金をかけていないのに、寿命が正の相関よりも高くなっている。なぜなのだろうか?
ハーバード大学には『命の格差は止められるか』の著書もあり、世界が注目する疫学授業を行なっている日本人、イチロー・カワチ教授がいる。彼は3万人の調査結果をもとに「なぜ日本が健康で寿命が長いか」を説明している。その理由は意外や「絆」や「格差のない社会」だというのだ。実におもしろい視点である。
長野県が男女ともに平均寿命日本一に輝いてから、その秘密が分析された。野菜の摂取量が日本一、減塩運動に成功したことが取り上げられた。しかしもっと細かく見ていくと、長野県の塩分摂取量は都道府県別で31位。健診受診率は9位。肥満率は11位で、けっして健康優等生ではないのだ。
僕はこの連載で高齢者の就業率が日本でいちばん高いことが影響していると述べた。健康長寿に生きがいが関係しているというのは、僕の最も大切にしている健康長寿デザインである。健康長寿へ導く大事な柱が「生きがい」と「絆」だというのはおもしろい。
田舎の人が小さな農業をしてお金を稼ぐ。都会で小さな農業が出来ないなら庭いじりをする。また地域貢献でさまざまな活動を手伝う、環境を守る、障碍者のボランティアをするなどして、生きがいを見つけることが大事なのだ。
そのためには仕事中毒の会社人間時代から、何か1つでもそういった関心を持っていれば、定年後の自分が健康で幸せに長生きできるデザインを描けるはずである。
カワチ教授の白熱教室では、資本主義社会で必ず生じる格差が大きければ大きいほど寿命を短くするという。貧しい人の寿命が短くなるのはわかるような気がするが、彼の膨大な資料を見ていくと、格差の大きい地域では、貧しい人と同時にお金持ちも寿命が短いことが分かってくる。
ニューヨーク州やワシントンDCなどでは、ジニ係数(所得格差を測る指標)が0.42~0.48と高い。それに比べるとユタ州では、0.36と低い。「そこ(ユタ州)では死亡のリスクが非常に低いことが分かってくる」とカワチ教授は話している。
また心臓病患者の多いアメリカには“ロゼット伝説”といわれる逸話がある。ペンシルバニア州にある小さな町、ロゼットで50年に及ぶ追跡調査が行なわれてきたのだが、過去、心臓病が平均の半分にすぎなかった、というのだ。極端に少ないのは、住民の間に助け合いの精神が広がり、絆があることが理由で、これが心臓病をも減らすと発表されている。
しかし、後年、人間関係が他のアメリカの町と似たようになるにつれて心筋梗塞などの発症率も上がってしまったという。
※週刊ポスト2013年11月22日号