就職活動で不採用通知を受け取ったとき、「理由を知りたい」と思うのは無理もないことかもしれない。しかし不採用理由の通知は、本当に就活生を救うのだろうか。作家で人材コンサルタントの常見陽平氏が考える。
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「お祈りメール」という就活用語があります。不採用、不合格を伝えるメールのことです。この手のメールには「末筆ながら◯◯様の今後のご活躍をお祈り申し上げます」と書いてあるので、こう呼ばれるようになりました。最近では、「サイレントお祈り」なる就活用語もあります。不合格通知すらこない状態のことです。祈っているのかどうかすらわかりませんが。
このお祈りメールですが、いつも話題になることがあります。それは、「なぜ、不採用理由を教えてくれないのか?」という問いです。今回はこの問題について考えてみましょう。
特定非営利活動法人自殺対策センターライフリンクが10月に発表した「就職活動に関わる意識調査」が話題になりました。日本経済新聞を始めとする全国紙や、ネットニュースにも掲載されたので、ご覧になった方もいるかと思います。調査は今年の3月と7月に就活中の大学生、院生を対象に実施され、聞き取りなどで計243人から回答を得ています。
この結果によると、「サイレントお祈り」を経験した学生は、7月の調査対象122人中、約7割強でした。なお、同じくこの122人中、就職活動生1人あたりのサイレントお祈りの経験回数は平均4.8回、就職活動生の5人に1人は10回以上のサイレントお祈りを経験していると報告されております。
日本経済新聞の2013年10月19日付の報道では(以下、引用、抜粋)
同法人は「企業は選考の際の理由など学生が納得いくようにしてほしい」と求めている。
「選考結果に関する問い合わせには一切お答えできません」と付記されている例も多く、「理由も知らされずに不採用を通告され、ショックを受けたという学生は多い」(ライフリンク)。
ここでは、果たしてそれは可能なのか、やるべきなのか、学生を救うのかということについて、考えてみましょう。
結論から言うならば、「サイレントお祈り」を無くすことは運用上ほぼ可能であるものの、「不採用理由の通知」は難易度が高いのです。また、これは、「サイレントお祈り」や「お祈りメール」以上に学生を傷つける可能性があると考えています。5つの論点からまとめますね。
1.サイレントお祈りはシステム導入で解消可能、だけど
まず「サイレントお祈り」ではなく、ちゃんと「お祈りメール」を送るのは、応募者を管理するシステムを導入している企業なら簡単です。ただ、この手のシステムを導入していない企業では、少し人数が増えると連絡が大変ということも。選考が進んだ段階では、最終的に誰にするか検討するので連絡が遅くなり、そのまま放置ということもあります。
2.物理的に、個別の説明は無理
人気企業、大手企業にはエントリーシートだけで数万枚届きます。少なくとも初期段階の選考においては、個別の説明は物理的に厳しいでしょう。説明できたとしても、あまりにアバウトな説明となり、参考にならないでしょう。できたとしても、選考がかなり進み、応募者が絞られた段階でしょうね。
落ちた理由を説明している企業は、あるにはあります。採用に力を入れているベンチャー企業は、落ちた理由を説明し、フィードバックしています。ただ、ここには学生の間でのクチコミの増加と、それによる仲間や後輩への認知度アップを狙うという下心もあります。
3.採用は、評価が高い順に決まるわけでもない
採用は受験とは違います。評価が高いからといって、採用されるわけでもないのです。全体のバランスから決まります。例えば、今年は営業に向いていそうな学生をたくさん採りたいなどです。学生に開示されない目標もあるわけです。
4.選考基準は曖昧であり、さらに変動する
すべての企業が明確な求める人物像を定義しているわけではありません。定義したところで、実際の選考においてそのように正確に運用されているわけではありません。
さらに選考基準は、採用活動の途中で変化していきます。基準が上振れしていったり、採用人数が埋まるにつれてさらに上がったり、採用担当者が習熟して選考基準が厳しくなっていったり、途中で採用目標の数とレベルが変わったりします。
そのため、なぜ落ちたかという説明も、ますます説得力のないものになっていきます。
仮に企業に不採用理由の説明を義務付けるとしても、真の不採用理由が開示されるとは限りません。
5.不採用の理由の通知は、逆に学生を苦しめないか?
私が最も気にしているのは、実はこれです。理由の分からないお祈りメールも辛いですが、理由が具体的すぎるお祈りメールはもっと辛くないですか?就活で心が折れてしまう学生にとっては、毎回「あなたのコミュニケーション能力に難があると感じまして」「全体のバランスから、今回は採用を見送らせて頂きます」などのメールが何通も届いたらますます辛くなりますよ、きっと。
この「不採用理由を通知すべきだ」という論も、正論のようで、実現性は低いですし、学生を救わないものです。
そもそもの就活の負荷を軽減するための取り組み、あまり負担をかえずに最初の1社が決まりやすくなる取り組みこそ大事だと考えます。たとえば、大学と企業のつながりの強化、紹介機能の強化などです。また、採用活動において学歴区別が行われているのは明らかなので、せめて採用実績校を開示する、などの取り組みです。
なぜ上手くいかないのかは、企業が伝えるというよりも、キャリアカウンセラーの仕事なのではないかと思います。
就活をめぐる改革論はこのように、もっともそうで実は若者を救わない案だらけだと私は感じています。
皆さんはこの不採用理由通知論、どう思いましたか?