最近は視聴率が低迷しているとはいえ、かつてのフジテレビは面白かった。それは誰もが認めるところだろう。では、その「良さ」とは、一体何だったのだろうか。黄金時代を知るフジ関係者が語る。
「1970年代まで低迷していたフジを押し上げたのが、今の日枝久会長。編成局長となって推し進めたのが『楽しくなければテレビじゃない』の大改革です。
とにかく楽しければ何でも許される空気が生まれ、深夜枠ならハケ水車(高速で回る水車にハケをつけ、それを女優の股間に当てて悶えさせるコーナー)をしてもOKだろうと、本当に好き勝手やった。案の定、PTAからお叱りがきても、むしろそれを誇りにさえ思っていたところがあった」
そのチャレンジ精神が、『ひょうきん族』や『なるほど!ザ・ワールド』などのお化け番組を生み出してきたことは間違いない。視聴率が取れれば、資金も潤沢となる。
「一昔前には、ボーナス以外にも季節ごとの特別功労金があり、年間でざっと給料の2.5倍ほどの収入があった。奥さんに黙ってお金を貯めこんでおける、300万円が限度の社内口座は、すぐにパンパンに膨らんでいました」(前出・フジ関係者)
こうした「古き良きフジテレビの文化が失われてしまって残念」と語るのは、1999年にフジに入社、今年4月にフリーに転身した元フジアナウンサーの長谷川豊氏だ。
「私がいた頃も、自分たちが一番面白いことをやっているという自負がありました。『ヘキサゴン』でおバカブームを起こし、番組で出した歌まで大ヒットしたことは懐かしいです。
そうした話題を次々に作ってきたフジテレビのはずですが、色々と叩かれ始めたためか、4~5年前からすっかりチャレンジ精神を失ってしまい、“ミスのない”番組作りを目指すようになってしまった。
制作会社の持ち込み企画は保身のためか全部ボツになって、新しいものを受け入れなくなってしまったんです。そのボツ企画を、深夜枠で拾って成功しているのが今のテレ朝です」
深夜枠で果敢に新企画に挑み、当たればゴールデン進出というモデルを提示するのはフジのお家芸だったはず。なぜ、ここまでチャレンジ精神を失ったのかについて、長谷川氏も「徐々に変わってきたので、はっきりとはわかりません」と首を捻る。
あるキー局のプロデューサーは、1990年代前半のバラエティ番組で起きた収録中の死亡事故やBPOによる番組審査で、「バラエティの現場に萎縮ムードが漂うようになった」と指摘する。
フジ・メディア・ホールディングス(HD)の2013年3月期決算の経常利益は、放送収入が前期比2.1%減になったことなどが響き、同9.8%減。
日枝会長は月刊『文藝春秋』10月号のインタビューで<経営判断基準は単に視聴率だけではありません。総合的な売り上げと利益です>と、強気な発言をしているが、光明は見えない。それでも、長谷川氏は、こう期待を込めて古巣にエールを送る。
「フジの社内には、まだ寝る間を惜しんで頑張っている人たちが数多く残っている。彼らのひた向きな努力が、現状を打破してくれると信じています」
※週刊ポスト2013年11月22日号