かつてはブロマイドの売上1位を記録し、二枚目の代名詞となっていた俳優、草刈正雄もいまでは、野心的な悪役やコミカルな役柄など、脇役として幅広く活躍している。だが若いころは、日米ハーフで彫りが深いみずからの顔立ちのために演じられる役柄に限界があると思っていたと草刈が語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が解説する。
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1990年代以降の草刈は、大河ドラマ『花の乱』『毛利元就』での野心的な悪役やテレビドラマ『イグアナの娘』『南くんの恋人』でのヒロインの父親役など、脇に回って幅広い役柄を演じ、新たな魅力を発揮してきた。草刈は以下のように語る。
「若い頃に求められた二枚目ではない、そこから離れた役を演じることに興味があるんですよ。悪役も、コミカルな役も。
時代劇は僕自身が好きというのもあります。お芝居をしている感じがあるので。それに、こういう顔をしているから時代劇は無理だと思っていたら映画『沖田総司』に出た時、違和感がなかった。それで『心は日本人なんだ』と思えたんです。
ただ、主役から脇に回る境目の時は苦しみました。いつもなら僕に来るはずの役が違う人に行ってしまっていましたから。でも、それが過ぎると今までと違った役も来るようになる。その時に自分の精神的なコントロールができ始めたことで、苦しみから抜け出せました。
主役をしている時は全てを背負っている意識があって、身動きできませんでした。それが脇に回ると楽しめそうな、弾けそうな気がして、いろいろと新たに発見することもあります。
とにかく自分が楽しんでいないと、見る人も楽しめない。そう思ってやっていますが、なかなか楽しめないんですよね。
大滝秀治さんも『僕は仕事を楽しんだことはない。苦しみだけだ』とおっしゃっていましたが、それがよく分かります。俳優座劇場の楽屋裏で大滝さんがお祈りしている写真を見たことがありますが、『ああ、俺と一緒だ。みんな苦しんでいるんだ』と思いました。僕も舞台に出る前はお祈りをしていますが『ああいう立派な俳優さんでも、そうなんだ』と。役者として食っていけるのか、この歳になっても自信を喪失することがあります」
※草刈正雄は11月28日より、ミュージカル『クリスマス・キャロル』に出演。東京・シアター1010、神戸・新神戸オリエンタル劇場など全国で公演予定。詳細はスイセイ・ミュージカルまで。
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が11月14日に発売。
※週刊ポスト2013年11月22日号