職場内の分煙が進むにつれ、受動喫煙はかなり防止されるようになった。にもかかわらず、タバコを吸わない社員からさらなる不満が噴出している。
「私の上司は30分に1回は席を立ち、仕事を中断してタバコを吸いに行くんです。それで15分以上戻らないことも度々。たかが一服とは言うけれど、この時間を合計したら優に1時間以上はサボッていることになります。業務に支障も出るし、タバコを吸わない人と比べて不公平だと思う」(メーカー勤務の20代女性)
最近ではこうした社員同士のギクシャクした関係を憂慮し、8時間の就業時間内は喫煙を禁止したり、職場の建物内を全面禁煙にしてしまったりする企業も出始めている。
しかし、喫煙者にも言い分はある。
「喫煙ルームでダラダラとサボッているわけじゃありません。仕事で煮詰まったときに気分を変えたいときや、張り詰めていた仕事がひと段落して緊張をほぐしたいときなどに行くだけ。この回数や時間まで制限されたら、むしろ仕事の効率は上がりません」(不動産・40代男性)
「ただでさえ喫煙者は肩身が狭いのに、1回15分以上もタバコ部屋で休憩するなんて恐くて出来ませんよ。素早く吸って5分以内には戻りますし、吸わない同僚に悪いなと思って、できるだけ昼休みを早く切り上げて電話番をするように心掛けています」(流通・30代男性)
こんな涙ぐましい気遣いも、嫌煙者にとっては眉をひそめるだけで、“煙たい”存在であることに変わりはないようだ。
では、実際に勤務時間内の喫煙はどこまで許されるのか。社会保険労務士の稲毛由佳さんに聞いてみた。
「労働契約では、就業時間中は職務に専念する義務が社員にはあります。あまりにも頻繁に喫煙所に行く人は職務を放棄してサボッていると見られても仕方ないと思います。
そこで、喫煙行為を休憩と捉えると、他の人がトイレに行ったりジュースを買いに行ったりする頻度や時間と同じぐらいであれば社内で波風も立ちませんし、許容範囲といえるでしょう。その目安は、お昼時間を除いて午前に1回、午後に1回~2回、時間は5分程度が許容範囲です」(稲毛氏)
だが、この範囲内で済ませたくても無理なケースが多く見受けられるという。
「喫煙所が各階になく3フロア毎に1室とか、建物の1階にしかないといった企業では、あまりにも遠くて5分では戻ってこられないでしょう。その場合は、非喫煙者との合意をきちんと得るとか、一斉に取る休憩時間内に行くしかありませんね」(前出・稲毛氏)
わざと社内での喫煙場所を減らしたり遠ざけたりすることで、徐々に禁煙を促す効果を狙っている企業もあるという。
しかし、厚生労働省が出している『職場における喫煙対策のガイドライン』には分煙対策に関してこんな記述がある。
<喫煙室等は、喫煙者の利用しやすさを考慮して、就業する場所の近くに設けることが望ましい>
<喫煙者は、非喫煙者の受動喫煙の防止に十分配慮をする一方、非喫煙者は、喫煙者が喫煙室等で喫煙することに対して理解することが望まれる>
社内規則のルールを守った分煙であれば、わざわざ喫煙者を隅に追いやる理由はないはずだ。愛煙家の50代サラリーマン(製造業)はこう訴える。
「頭をリフレッシュさせる方法として、コーヒーを飲む人もいればタバコを吸う人もいる。長時間のデスクワークは1時間に5分程度の休憩をしないと体もキツイので、せめて昼の1時間休憩を除いて、5分×7(時間)=35分はそれぞれが自由に休憩できる時間に充てても仕事の妨げにはならないと思うのですが……」
タバコを吸う、吸わないにかかわらず、休憩時間の取り方によって労働生産性にどのような影響が出るのか、一度じっくりと考えてみてもいいかもしれない。