大塚製薬のヒット商品といえば、『ポカリスエット』や『カロリーメイト』があるが、それらに次ぐ人気となっているのが大豆スナック菓子の『ソイカラ』である。このお菓子、なんと玩具から開発の着想を得たという。作家の山下柚実氏がソイカラの開発秘話に迫った。
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「カラカラ、カラカラ」と不思議な音が響いた。近所のスーパーで初めて買った『ソイカラ』を自転車のカゴに入れて帰る途中のことだ。帰宅してさっそくパッケージを開けると、爪より少し大きめの半月形をした褐色の物体が出てきた。指でつまみ出そうとするとまた「カラッ」と鳴る。ためしに振ってみた。まるで小さなマラカスだ。
おもしろい。こんな不思議なスナックは初めて。噛むと生地がパキっと壊れて、中から小さな玉が転がり出た。味はあっさり。塩味は薄めで、穀類の芳ばしい風味が口の中に広がっていく。カラカラ音や割れる食感が面白くて、もう一個口に放り込んだ。
2012年4月に発売された「チーズ味」に加えて、この10月、「のり納豆味」、「オリーブオイルガーリック味」が新発売された大塚製薬のソイカラはコンビニ、スーパー、ドラッグストアで男女問わず人気。大豆から作られたスナックだという。他に類を見ない個性的な形と素材からできたこの商品は、どうやって生まれてきたのだろう?
「開発者はマトリョーシカをヒントにしました」
と同社ニュートラシューティカルズ事業部・田中拓野氏(33)は言った。マトリョーシカですか? ロシアの定番お土産、入れ子人形の……。確かに、「中に何かが入っている」というおもしろさは共通している。ただ、マトリョーシカは玩具。これはスナック。「遊び道具」から製品を着想することもあるのですか?
「いえ、基本的には機能性を重視する、まじめな雰囲気の会社でして……開発者は『遊びじゃないんだぞ』と注意されたこともあるほどです」
ところが、その言葉をもって開発者は「成功」とふんだらしい。
「『遊んでいる』と思われるほどの製品ができた、ということです。ソイカラの開発コンセプトは『笑顔を作り出す楽しいスナック』。だから、遊び心は大切な要素になるんです」
でも、スナックになぜそこまで「楽しさ」を求める必要があるのか。 実は大豆という原料に理由の一つがある、と田中さんは続けた。
ソイカラの主原料はまるごと大豆だ。一袋が大豆約50粒分。小麦粉などは一切使わず、大豆を粉にして特殊な製法で熱して膨らませている、という。
「中に入っている2つの粒も、同じように大豆から作りました。栄養価の高い大豆という素材に、弊社はとことんこだわってきたんです」
しかし、大豆の魅力を再認識するのはなかなか難しい。あまりに身近すぎて「健康に良い」と分かっていても積極的に食べてもらえない。
「それなら楽しい気分になる大豆の商品を作って、自然に食べていただこうと。音が鳴る形状も、そこから生まれてきたんです」
心地よい響きにするために粒の大きさや固さはどうしたらよいか。試作を繰り返し、音響専門の研究所に分析してもらって、最適な形状を探っていったという。
音にそこまでこだわる一方で、味に強い印象を感じないのはなぜですか?
「毎日食べても飽きないよう、味付けはあえて控えめにしています。刺激的なほうが瞬間的には売れますが、私たちはソイカラをロングセラー、定番にしたいのです」
※SAPIO2013年12月号