少子化対策が叫ばれる昨今、男性の「育児休業」を促す狙いで政府は育休社員への手厚い金銭的支援を打ち出した。育児に積極的に参加する男性を「イクメン」と呼び、世間もおおむね好意的に受け止めているようだ。
親のサポートが期待できないなどの理由からひとりで子育てをする主婦は少なくないため、夫の育児参加を求める声は多い。そのため、家計の主戦力である夫が育休を取るとなると、育児休業給付金支給額アップは不可欠な要素となる。「しかし」と声をあげたのは、大手保険会社の部長職につく、56歳の男性だ。
「わからんでもないですよ。でもね、もう30年前ですがうちの子供が生まれた頃は私の仕事は忙しくて徹夜続き。出産にも立ち会えなかった。女房だって、田舎から出てきて頼る身内もない。それでも近所の母親仲間と協力したり、よくやってくれたと思いますよ。夫に育休を取らせる嫁と聞くとね、はっきりいってもらう嫁を間違えたんじゃないかといってやりたくなる。
時代が違うといってもいまの若い女の子は甘えすぎと違いますか。専業主婦っていうからにはちゃんと主婦をやってくれたまえと本音ではいいたい」
専業主婦の家だけではない。共働き世帯の場合も、男性の育児参加がなければ子育てが難しい。あるメーカーの58歳、管理職の男性がいう。
「部下の男性が『育休を取りたい』といってきたときには、まさかと思いました。私がいるのは男ばかりの営業部隊なので、これまで部下の結婚式で『新郎は休日にも家にいないことが多いが、新婦にはお酒を飲むのもゴルフをするのも仕事だと理解してほしい』と挨拶するのが常でしたから。それが育休だなんて……。
しかも、共働きだから、奥さんが復帰するのと入れ替わりに取得したいという。うちの給料だけで十分やっていけると思うんですが、『妻が絶対会社は辞めたくないといっている』の一点張り。結局、子供も欲しい、生活水準も落としたくない、なにも我慢をしないわがままな話に聞こえてしまう。
育休を取ったとして、生後間もない赤ちゃんに男がいったい何をできるのか。協力の仕方はもっと他にあるでしょう。それよりも、いましなければいけない責任のある仕事をほっぽり出すことがどれほどのことか考えて欲しい」
だが、そうした“本音”は「時代錯誤の古い考えだ」として批判されかねない。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授である夏野剛氏が話す。
「今の20代や30代は、高度成長時代に子育てをした世代と違い、右肩上がりの経済成長が期待できず、年功序列の恩恵も受けられず、年金も払った額よりもらえる額の方が少ない。そうした大きな将来不安を抱えた世代なのです。その彼らが育児休業給付で優遇されるといっても、受ける恩恵は微々たるものですよ。
それに今は、若い世代では男女の能力差がないどころか、女性のほうが高く評価されることも多い。そんな時代に『男が家に入るのはいかがなものか』などといって、男性の育休取得に反対するのは時代錯誤も甚だしいといわざるを得ません」
※週刊ポスト2013年11月22日号