【書評】『関東連合 六本木アウトローの正体』久田将義/ちくま新書/819円
【評者】嵐山光三郎(作家)
男たちがヤクザ抗争事件に興味を持つのは「決着のつけかた」を見届けたいからである。官庁や会社など合法社会では、不始末の責任があいまいで、巧妙にたちまわって、犯人はどこにもいないということがたびたびおこる。
ヤクザや反社会的集団では、親分や仲間が殺されれば仕返しをするのが暗黙のルールである。おとしまえがきっちりとつく。だから、ごく普通のサラリーマンが、「ヤクザ抗争事件で、だれが殺されて、どう決着がつくか」といった報道に夢中になる。ひと昔前の東映「ヤクザ映画」に全共闘学生が熱中したのも、基本的には、同じ感情であった。
それが関東連合となると、まるで筋がわからない。西麻布のバーで海老蔵殴打事件、押尾学MDMA事件、元横綱暴行事件で関東連合の名がメディアに登場し、人違いの「六本木クラブ襲撃事件」では、ヤクザ用語で言う「下手をうった」(失態をさらした)。主犯は関東連合の元幹部で、指名手配されて、まだ逃亡中である。警視庁は「準暴力団」と規定した。実態がつかめないので、かえって恐ろしい。
関東連合は暴走族が集まった連合体で、先輩後輩の序列はあるがトップのリーダーはいない。本部もない。元暴走族のビジネス集団といったところらしい。そのため警察も取り締まりにくく実態をはかりかねていて、それを筆者の久田将義氏は「関東連合という現象」と解釈した。1970年代に登場した暴走族という不良少年スタイルが、現在の関東連合に変質した。久田氏は元暴走族総長やヤクザに会って、関東連合という現象を追っていく。
1980年代半ばにはチーマーという不良少年スタイルがあらわれた。凶暴化した渋谷のチーマーを制圧した関東連合が六本木のクラブに進出した、という見たてだが、漂流する関東連合がこれからどうなるか、は久田氏もはかりかねているようだ。関東連合ウォッチャーである久田氏のさらなる密着取材と実態解明が期待されるところである。
※週刊ポスト2013年11月29日号