11月12日、小泉純一郎元首相は日本記者クラブで講演し、「脱原発」の実現を訴えた。「即時ゼロ」にまで踏み込んだ小泉氏の講演を新聞はどう報じたのか。その扱いは、新聞の立ち位置を浮かび上がらせた。
社説で小泉氏を批判した読売は、4面で〈小泉氏「原発『即ゼロ』がいい」〉との見出しで取り上げたが、ほぼ同じ紙幅を使って自民党の反応を掲載し、細田博之・幹事長代行の「小泉氏の結論は正しくない」とのコメントを紹介。だが、講演で「逆に無責任だ」と指摘されたことへの再反論はなかった。
読売以上に地味な扱いだったのは日経。3面の右下隅に講演の簡単な要旨を載せたが、小泉氏の写真はなく、スペースは用語解説コラム『きょうのことば』と同じ。経済的理由から再稼働推進論を展開する同紙としては、扱いにくい内容だったのか。
同じ原発推進派でも“独自色”を見せたのが3面と5面で報じた産経だ。5面では発言要旨を掲載。見出しで〈原発そんなに再稼働できない〉とともに、〈中国への対応今のままでよい〉を掲げ、対中強硬外交を支持した発言を紹介している。
一方、1面に掲載したのは脱原発論を展開する朝日、毎日、東京。
最も紙幅を割いたのは毎日で、社説(5面)で〈首相は耳傾け決断を〉と展開したほか、2面で前週末(9、10日)に実施していた世論調査結果を掲載。小泉氏の原発ゼロに賛同が55%だったことを伝えた。「小泉発言は我が社のスクープ」という意地を見せたかったのかもしれない。
東京も全面的に小泉発言を支持するスタンスだが、「首相に決断促す」という部分に力点を置き、脱原発勢力の連携の可能性を強調。講演当日には小泉氏と会談した細川護熙・元首相のインタビューを載せるなど、「脱原発政局」に期待する狙いが窺える。
1面トップで掲載した朝日も総じて小泉発言を評価するトーンだが、社会面では小泉氏の「転向」に焦点を当て、“反省して道筋を示せ”とチクリ。小泉氏の首相在任中から構造改革や外交姿勢を批判してきた同紙だけに、「原発ゼロ」発言を歓迎しながらも、素直に喜べない隔靴掻痒が垣間見える。
小泉発言は政治の無責任だけでなく、大新聞の思惑や“ご都合”まで炙り出したところが実に興味深い。
※週刊ポスト2013年11月29日号