どんな人でも使っているが、その存在を意識することはあまりない「半導体」。エルピーダメモリが会社更生法を申請するなど国内の半導体産業は弱体化の一途だが、「半導体製造装置」は現在も日本メーカーの存在感が大きい。9月に、米アプライドマテリアルズとの統合を発表した東京エレクトロンについて、ジャーナリストの永井隆氏がリポートする。
* * *
〈国境越えた再編〉〈世界首位統合〉〈時価総額2.8兆円〉〈統合3年目で495億円効果〉〈スマホ機能アップに期待も〉。今年9月、半導体製造装置で世界3位、国内トップの東京エレクトロンと世界首位の米アプライドマテリアルズが2014年後半に経営統合するという発表を受け、日本の新聞各紙にはそんな見出しが躍った。
「半導体製造装置」は、一般には馴染みが薄い商材である。しかし、工作機械などと並び縁の下から様々な最終製品を支えている技術であり、欠くことのできない商品だ。日本のモノづくりの根幹を担っていると言える。
1990年の半導体の世界シェアは、NEC、東芝、モトローラ、日立が上位4社だった。日本の3社だけでも、世界シェアの3割を占めていた。しかし、それも今は昔。半導体のトッププレーヤーは今や米インテル、韓国サムスン電子、台湾TSMCなどが名前を連ね、この3社だけで世界の半導体設備投資総額の6割を占める。
NECと日立が1999年に設立したエルピーダメモリは、2012年2月に会社更生法適用を申請。日立と三菱電機、さらにNECが加わって設立されたルネサスエレクトロニクスは、2013年に産業革新機構などから出資を受け経営再建中だ。
東芝がここにきて、NAND型フラッシュメモリーという最先端商品の製造設備増強を打ち出すなど、一部に明るい兆しはある。が、多くの日本の半導体メーカーはリーマン・ショック以降、世界の先頭集団から大きく引き離されてしまった。
そうした中、「上流」にあたる半導体製造装置では世界上位10社のうち5社が日本企業である。東京エレのほか、洗浄装置に強い大日本スクリーン製造、検査装置のアドバンテスト、日立ハイテクノロジーズ、露光装置のニコンだ。
日本は、産業機械、素材産業などの基礎技術、そして半導体製造装置といった「上流」で特に高い技術を持ち、優位性を有する。しかし、多額の利益が出る“オイシイ”部分はアップルやサムスンなど「下流」の組み立てメーカーに持っていかれている構図がある。
近年、半導体製造装置は寡占化が進み、サムスン電子やTSMCなどに価格決定権を握られ、価格交渉で装置メーカーは苦しい立場を強いられてきた。今回の統合は、そうした状況を打破して「上流」の力を取り戻し、業界の主導権を握る可能性を秘める。それは取りも直さずニッポンのモノづくりが再び輝けるのか、その試金石でもある。
※SAPIO2013年12月号