市販薬のインターネット販売をめぐって、楽天の三木谷浩史会長兼社長が気を吐いている。政府の「規制強化」ともいえる方針に対して真っ向から異を唱え、裁判闘争に打って出る構えなのだ。
もともと安倍晋三政権は薬のネット販売を「規制改革の1丁目1番地」と位置付けて、全面自由化を進める方針だった。それが一転して、23品目とはいえ事実上、最長3年間は販売が禁止されてしまう。これでは規制改革どころか、逆に規制強化と受け取られても仕方がない。
なぜ、こんな事態になったのか。政権内部を取材してみると、実は、まだ公表されていない「秘密文書」が存在することがわかった。規制維持をもくろむ厚生労働省は攻防の土壇場で、この文書を切り札に使って改革推進派の稲田朋美行政改革相らを押し切ったのだ。
それは何かといえば、専門家が「市販薬は薬局での対面販売が望ましい。ネットでの販売は制限すべきだ」と断言した文書である。私は現物を入手していないが、複数の政府関係者によれば、医薬品に関する「6人の専門家が全員、署名している」という。
文書は稲田と菅義偉官房長官、甘利明経済財政相、田村憲久厚労相の4人がネット販売をめぐって議論した11月5日深夜、激論が中断した合間に厚労省が大慌てで専門家たちに依頼して作成した。
討議の重要資料であれば、役所が事前に用意して関係閣僚に配っておくのが普通だ。なぜ、そんなドタバタ劇になったかといえば、同じ6人の専門家がまとめた正式の検討文書は「ネット販売はダメだ」とは言い切っていなかったからである。
政府関係者が言う。
「こういう専門家の文書が出てくると、政権としては『それでもやれ』とは言えない。だが、これは手順がおかしい。後出しジャンケンで勝ったようなもの。厚労省の失態だ」
最大の問題は、いまだに文書が未公開である点だ。重要政策を左右したにもかかわらず、厚労省はすべてを闇に葬るつもりなのか。もしも表に出たとしても「自分たちは事務方にすぎない。結論を下したのは専門家」と言い逃れるつもりなのか。当然、公表すべきである。
三木谷には、こういう役人を相手に徹底的に戦ってもらいたい。
(文中敬称略)
文■長谷川幸洋:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員。近著に『政府はこうして国民を騙す』(講談社)
※週刊ポスト2013年11月29日号