ITの巨人として成長をし続ける企業、グーグルは、ネット世界だけでなく自動運転車などの開発によって、リアル世界と融合しつつある。グーグルの次の狙いは、不老長寿100歳を実現することにあると、大前研一氏が解説する。
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グーグルは検索、動画、地図といったネット世界を、自動運転車などの開発によってリアル世界と融合しつつあるわけだが、実は自動運転車やメガネ型ウエアラブル端末のグーグルグラスは、同社の研究開発部門の中でもとくに未来的な技術の開発に取り組んでいる「グーグルX」という研究所の「ムーンショット」から誕生している。
ムーンショットは“月へのロケット打ち上げ”という意味で、グーグルXは月ロケットのような「不可能と思われるアイデアを科学技術の力で実現すること」を目標に、多数の最先端プロジェクトを推進しているのだ。
そして今、このムーンショットの中で最も力を入れているのが「Calico」というライフサイエンス(生命科学)のプロジェクトだ。主な研究内容は、ずばり“現代の不老長寿”。米『TIME』誌(9月30日号)も、カバーストーリーで「CAN Google SOLVE DEATH?」(グーグルは“死”を解決できるか?)と題して大特集を組んでいる。
同誌によれば、Calicoプロジェクトはグーグルの大規模なクラウドとデータセンターを利用して疾病と老化に関する研究を行なうもので、共同創業者でCEOのラリー・ペイジは「人間の寿命を大幅に延ばすことが目標の一つだ」と述べており、具体的には今20歳の人間の寿命を100歳に延ばすことを目指しているという。
これと関係してくると思われるのは、グーグルの共同創業者セルゲイ・ブリンの妻のアン・ウォジツキが創業者の1人である「23 andMe」社だ。同社は、個人が安価で手軽に遺伝子検査を受けられるサービスを展開し、99ドルの検査キットを購入して(他に送料などが必要)、それに自分の唾液を入れて送るだけで、数週間後に検査結果をオンラインで確認することができる。240以上の遺伝情報が診断され、がんやパーキンソン病、アルツハイマーなどになる確率がわかる。
グーグルは「23andMe」社に投資しているので、情報量が急増している同社の遺伝子データベースにアクセスし、Calicoプロジェクトに活用することができる。
グーグルは「人類が使うすべての情報を集めて整理し、無料で提供する」という壮大な目的で創業されたが、遺伝子情報はその最たるものだから、そのビッグデータ(大容量のデジタルデータ)を集めて人間の寿命を決めているものを抜本的に取り除くことにチャレンジしているのだ。
このようにしてグーグルの「生態系(エコシステム)」は、国境や業種を越えてどんどん拡大しているわけで、今や「国家を超えた社会性」を持ち始めている。これを打ち負かす構想を持った会社はなかなか出てこないと思う。
※週刊ポスト2013年11月29日号