芸能

故・小林桂樹「気に入られる必要はないが嫌われちゃだめだ」

 喜劇から社会派ドラマまで幅広く出演、映画黄金期を支えテレビドラマでも長く活躍した俳優の故・小林桂樹氏。86歳で亡くなった約1か月後に行われたお別れ会では、多くの俳優が参列し故人を偲んだ。多くの後輩俳優に慕われた小林氏の生前の言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が解説する。

 * * *
 ベテラン俳優の多くが「お世話になった先輩」「尊敬する先輩」として名前を挙げるのが、故・小林桂樹だ。自伝『役者六十年』(中日新聞社刊)には、彼が後輩たちに優しくアドバイスをする理由が書かれている。

 小林の特徴はなんといっても、演じてきた役柄の多彩さにある。天才画家(『裸の大将』)、驕る権力者(『激動の昭和史 軍閥』)、堅物のサラリーマン(「社長」シリーズ)、朴訥とした侍(『椿三十郎』)、沈みゆく日本と運命を共にする地震学者(『日本沈没』)、陰で人殺しを営む鍼医者(『仕掛人・藤枝梅安』)、軽く挙げるだけで、これだけの幅だ。しかも、全てを完璧に演じ分けている。

 そんな小林の演技の秘訣を示すエピソードも同書には綴られている。若手時代の小林は二枚目役を多く演じていたが、それには違和感があったという。

「なんでもくそまじめに堅く演じるタイプの役者だったから、ソフトで融通の利く二枚目は向かない。いまだに僕の演技は堅い傾向がありますが、これは一番はじめに軍人役をやって身に着いたものです」(小林)

「与えられた役を一生懸命やるしかない。ありがたいことに、『小林はまじめにやっているから』と、僕を使ってくださった監督さんがたくさんいました。

 ある人は『小林さんは嫌われない』と言ってくれたことがあります。だから、僕もよく言うんです。『何かお世辞つかって、人に気に入られる必要はない。だけどね、嫌われちゃだめだ。嫌われるとどんなにいいやつでも、力量のあるやつでも、力を発揮できない』って」(小林)

 驕らず、浮かれず、謙虚に自分を戒める。役者たちから尊敬を集める理由が、よく分かった。

(文中敬称略)

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が11月14日に発売。

※週刊ポスト2013年11月29日号

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