経済発展の裏側で広がった麻薬汚染。当局も対策に乗り出しているようである。中国の情勢に詳しいジャーナリスト・富坂聰氏がレポートする。
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11月中旬、愛知県稲沢市の市議が3キログラムを超える覚せい剤を運び出そうとしたとして中国広州市の白雲空港で身柄を拘束されたニュースが日本国内を駆け巡った。
容疑者が市議という立場であり、また70歳という高齢であったため陰謀説も飛び出したが、現状で市議が放免になる可能性は低いと考えられている。
「ナイジェリア人から預かっただけ」という市議の証言の真偽はさておき、犯行そのものがまったく間の悪いタイミングだったことは明らかだったようだ。
というのも広州は当時〝厳打〟(強化キャンペーン)の真っ最中だったからだ。犯罪組織であれば、せめて〝厳打〟の時期だけでも避ければ良さそうなものだが、時期をずらせられない事情があったのだろう。
いずれにせよ〝厳打〟の成果は続々と報じられ、なかでもいま中国で注目されているのが〝蘭姉さん〟と呼ばれた麻薬密売組織の親玉の摘発である。これは大規模麻薬密売組織が確認された8月16日をもって「8・16案」と呼ばれ、3カ月の内偵の末にやっと元締めの逮捕となったのである。
蘭姉さんは37歳の女性。逮捕時には49.5キログラムの「スペシャルK(ケタミン)」、4.2キログラムの「揺頭丸」、そして1キログラムの「アイス」を運搬中だったという。こうして地元警察が麻薬組織摘発で手柄を競い合っている広州で、なぜか覚せい剤を運び出そうとしたというわけだ。考えれば考えれるほど不思議な事件だ。