この夏大ヒットした映画『風たちぬ』以外にも数々の名作を生みだしているスタジオジブリ。これら珠玉の作品の数々は、想像を絶する過酷な作業の果てに生み出されている。
宮崎駿監督(72才)について、博報堂のジブリ担当(2003年から博報堂DYメディアパートナーズ)で、『崖の上のポニョ』では、大橋のぞみ(14才)と主題歌を歌った藤巻直哉さん(61才)はこう話す。
「宮崎さんは、映画を作るたびに“命をかけなきゃダメなんだ”ってよく言っていました。今まで生きてきた全ての人生を注ぎ込むんです」
だからこそ、スタッフにもその覚悟を求めた。
『ポニョ』の製作に密着したドキュメンタリー番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)には、こんなシーンがあった。
小さな鳥が何羽も飛び交う風景シーン。時間にして数秒ほどのカット。その風景を描いたアニメーターに宮崎さんはこんな憤りを見せた。
「鳥を描こうと努力してないと思います。これじゃ飛ばないと思いますよ、鳥は…。ケンカ売られている気がしますよ!」
そんな数秒のカットにも一切の妥協をしない。だから肉体だけでなく精神的にも追い込まれる。むしろ追い込まれなければ作れない。映画製作中の宮崎さんは、脳みそが“開きっぱなし”の状態だという。ゆえに家に帰っても眠れない日々が続いた。
そのため、いつからか、仕事がどんなにはかどっても帰る時間を決めた。そして、ひとりでスタジオから自宅まで車で帰るまでの間、必ずこんな“儀式”をしていた。
「バスの数を数えるんだそうです。バスが1台、2台って。そうやって脳みそをクールダウンさせていく。それをすることで脳みそが閉じて、眠れるようになるんだそうです」(前出・藤巻さん)
映画を作る作業。ジブリ作品の場合、それは命を削る作業ともいえる。72才という体には、すでに限界だった。
9月6日に行われた宮崎駿監督の引退会見で、鈴木敏夫プロデューサー(65才)は、宮崎さんの引退を聞いたのは、6月19日の『風立ちぬ』の初号試写直後と語った。だが実際は、もっと前だったという。鈴木さんが今回の取材で明かしてくれた。
「実は、宮さんは『風立ちぬ』の製作当初から“これで引退。いくらなんでも限界だ”と言っていたんです。完成した時には、“記者会見をすぐやりたい”と言ってきました」
※女性セブン2013年12月5日号