看護・介護を理由に仕事を辞めた人は約10万人(2012年、総務省調べ)。それほどに、介護は家族の負担となる。高齢者のうち4人に1人が認知症といわれる今、さらにその数は増えていく可能性もある。
神奈川県鎌倉市に住むサラリーマンの早田雅美さん(52才)の一日は、朝5時に母親の美智子さん(81才)を着替えさせることから始まる。美智子さんは認知症とパーキンソン病を患い、「要介護5」。意思疎通はほぼできず、普段は横になっていることが多い。
着替え後、美智子さんの口の中をきれいにしたら、家族の朝食をつくる。自力で食べられない美智子さんの口を開けさせ、食べ物を口に運ぶ。約1時間半の食事介助が終わると子供や自分の身支度を済ませ、都内の勤務先に向かう。
「一般の人で、最初から介護をしたくてしている人はいないと思います。ぼくの場合は、家のローン、妻の親の介護、子供の学校など、いろいろな理由で仕事を辞めるわけにはいかないのです」(雅美さん)
生活していくには働いて収入を得る必要があり、介護そのものにもお金がかかる。仕事と介護の両立は、今後多くの人が直面する課題なのだ。
雅美さんは共働きしながら美智子さんを自宅で介護している。妻も要介護状態の親を介護しているため、4才になる子供の育児は一緒に行っている。介護休暇は無給なため使わない。育児によるフレックス出社制度を利用して10時半に出勤。20時半以降に会社を出て、子供を保育園に迎えに行き、帰宅する。
夜は必ず美智子さんを自らお風呂に入れる。疲れている時に大変ではないかと思うが、雅美さんは「本人の心身の状態がいちばんわかる時」として必要な時間だと話す。
平日の日中はデイサービスや、介護保険・自費のヘルパーを利用し、美智子さんがなるべくひとりにならないようにしている。週末や連休は、旅行好きだった美智子さんの刺激になればと子供も一緒に外出。昨年はハワイ、その前はトルコで気球に乗った。若いころにダンスを踊っていた美智子さんのために、地元で通えるダンス教室も見つけた。
認知症の症状や進行スピードには個人差があるが、時間をかけて徐々に進むものだ。
「認知症介護は確かに大変ですが、何かトラブルが起こっても、考えて対処できる時間があります。日常の中でその都度何が足りていないのか、どこにサポートが必要なのかを考えます。すると、今の生活の延長上で、これは自分でもできる、これは助けを借りよう、と整理できる」(雅美さん)
※女性セブン2013年12月5日号