【書評】『とっぴんぱらりの風太郎』万城目学/文藝春秋/1995円
【評者】内山はるか(『SHIBUYA TSUTAYA』)
『鴨川ホルモー』『鹿男あをによし』『プリンセス・トヨトミ』…個性溢れるキャラクターと奇想天外で自由闊達なストーリー展開ゆえか、著者作品には映画・ドラマ化されたものが多い(『偉大なる、しゅららぼん』も来年、公開予定だという)。
著者のデビュー作『鴨川ホルモー』が当店に入荷したときを思い出す。いちばんに思ったのはやっぱり、「何だホルモーって?」。
しかし、読んでみて驚き、喜んだ。意味なんてわからなくたっておもしろいのだ。奇想に次ぐ奇想の虜となり、「一体なんでこんなこと思いつくの?」と、デビュー作で、すっかりファンになってしまった。
その著者の新作は時代小説、しかも大長編(752ページ!)。2年ぶりということもあって、いやがうえにも期待が高まる。
時は関ヶ原の戦いから12年、天下は豊臣から徳川へ、泰平の世となりつつあった。それに伴い、忍者の需要と供給のバランスは崩れ出していた…って、泰平の世ともなれば忍者の質も落ちたりするものだろうか?
本書の主人公は、強靭な肺を持ち、息が長く続くのが取り柄のほかはいたって並の忍・風太郎。
風太郎は突然、忍をクビになり、伊賀を追われ京へ行くこととなる。自堕落な日々を送り、“ニート忍者”に成り下がりつつあった風太郎の運命を、なんと1つのひょうたんが左右する。
それにしても、「ひょうたん」はなんて愛くるしい姿の植物なんだろう。そう、著者といえばひょうたんなのだ。実際にひょうたんを栽培しているそうで、作中にはひょうたんの栽培や実の処理の仕方が記されている。また、最新エッセイ『ザ・万字固め』にも“ひょうたん愛”が綴られている。
さて、南蛮育ちのマイペース忍者・黒弓、泥鰌髭のイヤ~な奴、風太郎と同期の忍・蟬、謎の貴人・ひさご様等々…ひとクセもふたクセもあるキャラクターが本書でも跋扈し、驚きの展開を演じ、最高のクライマックスを生む! ちなみに、決戦は難攻不落の大坂城で、興奮と感動のラストだ。
新作を楽しみに待っていた私の期待は裏切られることなく、秋の夜長の大満足の一冊となった。
※女性セブン2013年12月5日号