今オフのフリーエージェント(FA)市場は例年以上ににぎやかだ。投手は久保康友(阪神)、大竹寛(広島)、中田賢一(中日)、涌井秀章(西武)と各チームのエース級が手を挙げた。
今年6年ぶりに最下位脱出を果たし、来季はクライマックスシリーズ進出が至上命題の中畑清監督率いる横浜DeNAベイスターズにとっては、どの投手もノドから手が出るほど欲しい人材だ。だが、横浜DeNAは久保の獲得を目指していると伝えられるだけ。当初は手を伸ばしていた涌井も、ロッテ移籍でほぼ決定しそうな状況だ。
球団の補強事情もあるが、FAする投手にとって、横浜は“鬼門”となっているのかもしれない。過去に、駒田徳広(巨人)、若田部健一(ダイエー)、野口寿浩(阪神)、橋本将(ロッテ)、森本稀哲(日本ハム)、鶴岡一成(巨人)、小池正晃(中日)と7選手を獲得している(カッコ内は旧所属球団)。
だが、活躍したといえるのは駒田と出戻りの鶴岡だけ。唯一の投手である若田部は3年間でわずか1勝の成績しか残せず、戦力外通告を受けた。
そもそも、本拠地の横浜スタジアムは、両翼94.2 m中堅117.7 mと投手にありがたくない「ホームランの出やすい球場」だ。1978年の開場当初は、高いフェンスに広い両翼で「ホームランが出にくい」といわれていたが、1990年代に両翼100m、中堅122mのドーム球場が次々と建設され、相対的に“狭い球場”になってしまった。
今年、規定投球回数に達したDeNAの投手は、ベテラン・三浦大輔とルーキー・三嶋一輝の2人だけ。ともに防御率3.94で17人中15、16位。いっぽうで、被本塁打数は三浦26、三嶋20でリーグワーストの1、2位。
投手の成績が、どれだけ本拠地に左右されるかは、FA移籍に限らずトレードで横浜に迎えられた投手、去った投手の成績を見れば、一目瞭然だ。エンジェルベルト・ソトは、今年中日から横浜DeNAに移籍。一昨年1.73、昨年2.17と安定した防御率を誇っていただけに、先発の柱として期待されたが、わずか1勝止まり。防御率9.68と打ち込まれている。
この状況は、今に始まったことではない。清水直行はロッテ時代の2009年、144回3分の2で14被本塁打だったが、横浜に移籍した翌年は155回で26被本塁打とほぼ倍増。防御率も5.40と1点近く跳ね上がった。
門倉健は2003年の近鉄時代、主に先発で6勝4敗。翌年、横浜に移籍するとシーズン途中から抑えを任され、4勝8敗10セーブ。だが、抑えにもかかわらず、本塁打を16本も浴び、防御率も4.60と悪化した。続く2005、2006年は先発に戻り、連続で2ケタ勝利を挙げたが、飛ぶボール時代とはいえ、2年連続で19被本塁打だった。
逆に、横浜から広いドーム球場を本拠地とする球団へ移籍した投手は、数字を残している。横山道哉は横浜時代の2003年、わずか3試合で0勝2敗防御率10.00という散々たる成績になると、オフに日本ハムへ。すると、突如として変身を遂げ、4勝28セーブで最優秀救援投手に。
石井裕也は横浜時代の2009年、28試合0勝6敗防御率4.26と不調に終わると、オフに日本ハムへトレードされる。だが、広い札幌ドームを背に投球が変わったか、13試合で防御率2.53と安定感を取り戻し、翌年から2年連続で防御率1点台に。今年も、51試合に登板し、防御率2.74と中継ぎの役割を充分に果たしている。
寺原隼人は横浜時代の2010年、20試合に登板し4勝3敗でオリックスにトレードされると、12勝10敗と完全復活。両翼100m、中堅122mの本拠地に助けられた例といえよう。
奇しくも、先日横浜から日本ハムへトレードされた佐藤祥万はこう述べた。「パ・リーグは球場が広いのでチャンスと思っている」──。FA投手が横浜へ来たがらない背景には、横浜スタジアムの狭さが関係しているのかもしれない。