台北・松山空港に降り立った小久保裕紀新監督(42)は、グレーの三つ揃いのスーツでビシッと決めていた。これまで、これほどきちっとした服装で試合地に乗り込んだ代表監督はいない。そのいでたちに、新監督のチームに賭ける決意を感じたが、同時に、異例ずくめの新生侍JAPANらしい船出でもあると思われた。
新チームの監督に抜擢された小久保は、昨年まで現役選手。本番までの3年半という長期契約内容も異例だが、プロ指導未経験者の代表監督就任も異例中の異例といえる出来事だった。
台湾との親善試合、彼は試合前から、ことあるごとに「勝ちにこだわる」と言い続けた。26歳以下という若いチームで臨んだだけに、この方針も異例といえば異例だろう。宣言通りの3連勝を果たしたのは見事だったが、経験を積ませることにもっと重きをおいても良かったのではないか。
「たとえば、サッカーの場合、代表チームが強化試合で3連敗したらメディアに『監督交替か!?』という記事が出ますよね? 同じように常に『真剣勝負なんだ』という気持ちを持ってほしかった。
選手を試すことは、僕の頭の中にとどめておいて采配に生かせばいいだけですから。今回が4年後へのスタートだという明確なビジョンを選手に持ってほしかったんです」(小久保氏)
3連勝という結果とはいえ、当然、その過程ではいくつかの反省を含む発見があった。人生で初めて指揮を執った第1戦は、3時間半を超えるロングゲームだったが、本人が「野球人生で一番短く感じた試合」と語るほど集中していたという。
「選手のころは自分の打席だけに集中すればよかった。でも、監督は常にすべてのパターンを想定してサインを出し続けなければならない。集中力の持続が必要だと実感しました。そして瞬時の決断力が求められます。初めて監督をしてわかったことですね」
取材・文■田中周治/撮影■藤岡雅樹
※週刊ポスト2013年12月6日号