世界中に衝撃を与えた宮崎駿監督の“引退”会見から2か月。年内2作品目となるジブリ映画『かぐや姫の物語』が公開となった。監督を務めるのは、宮崎監督との関係をビートルズのジョンとポールに例えられる盟友・高畑勲さんだ。そしてまた、彼もこれが実質的な“引退作品”といわれる。
ジブリ作品は、宮崎さんと高畑さんが作りたいものを作ってきたと思われがちだが、決してそうではない。プロデューサーの鈴木敏夫さんが映画を企画して立ち上げたケースも少なくない。
『風立ちぬ』は、宮崎さんが模型雑誌に連載してた漫画を鈴木さんが映画化したいと企画した。それは3年前の8月だった。
「宮さんは戦争は大嫌いだけど、戦闘機は大好きという矛盾を抱えた人なんです。当時、まだ引退は決まっていませんでしたが、宮さんの年齢を考えたら、もうそんなに長くはできないと思った。だったら、戦争と戦闘機を題材にした映画を作って、悔いが残らないようにしてほしいと思ったんです」(鈴木さん)
すでにこのとき、鈴木さんは、次が宮崎さんの最後の作品になると気づいていたのかもしれない。だからこそ、宮崎さんが頭の隅っこに隠して埋めておいたものを世の中に引っ張り出したかった。
鈴木さんが企画を持って行くと、たいていの場合、宮崎さんは、二言三言交わして納得するが、今回ばかりは違った。
「鈴木さんはどうかしてる!」と大反対。
「宮さんはアニメーションは子供のものであるべきという考えがあった。だから、戦争を題材に映画を作ってはならないと決めていたんです」(鈴木さん)
それから鈴木さんは宮崎さんと顔を合わせるたびに、映画化を説得し続けた。
「そうしたら10月のある日、宮さんが“あんまり言うから、映画になるかどうか考えてみる”と言ってくれた。そして年末、忘れもしない12月21日なんですけど、宮さんが映画案が2つあると。
1つがカプローニと二郎の友情物語で、もうひとつが二郎と菜穂子とのラブストーリー。どっちかだったらできるって言われたので、“両方くっつけたらどうですかね”って。本当にプロデューサーっていい加減ですよね(笑い)」(鈴木さん)
宮崎さんがこのテーマに向き合って、悪戦苦闘しながら、どのようなものを生み出していくのか。『風立ちぬ』をいちばん見たかったのは、他ならぬ鈴木さんだったに違いない。
※女性セブン2013年12月5日号