「ナマの日本美術を観に行こう」と始まった大人の修学旅行シリーズ。美術初心者にも易しく分かりやすくをモットーに、今回も先生役はお馴染みの「日本美術応援団」団長・山下裕二教授。生徒役のモデルの相沢紗世さんを連れて一路、山口県立美術館へ。幕末の鬼才絵師・狩野一信が描く『五百羅漢図』の世界を案内する──。
相沢:じつは2年前の江戸東京博物館の『五百羅漢図』展も観に行ったんです。100幅で500人の羅漢さんは壮観。最後はその迫力に力尽きてしまうほどでした(笑い)。
山下:幕末の絵師・狩野一信が描いた日本美術史上空前絶後の超大作を初めて全幅公開したんですが、あのときは開催の4日前に東日本大震災に見舞われて、1か月半も延期することになってしまった。じつは、狩野一信は完成まであと4幅というところで亡くなったといわれていて、偶然の一致とは思えず、背筋が凍えましたね。
相沢:それにしても、1幅目から順に見ていくと、どんどん雰囲気が変わっていきますね。これは超絶技巧というか、1幅でお腹いっぱいになってしまうくらいの繊細さで凄い……。
山下:この第9幅には羅漢の入浴場面が描かれていますが、この御簾は1ミリ間隔の線が均一に引かれているんですよ。御簾の奥の様子まで透けて見える表現には恐れ入る。この凄さは図録ではなかなか感じられないでしょう?
相沢:本当! あくびをしている小僧さんや髭剃り耳掃除をしてもらっている羅漢さんもいますね。
山下:最初は淡々と羅漢の日常を描いているんですが、21幅目あたりからスイッチが入ってアドレナリン全開(笑い)。21~24幅には六道の地獄が描かれていますが、まるで歌舞伎の見得を切っているような力強さですね。
相沢:髪の毛まで一本一本描かれているし、色使いも多彩。着物の柄も一つとして同じものはないんですよね? 本当に豪華というかなんといえばいいのか。
山下:表具は西陣に特注で織らせています。絹の裏から金色をのせる裏彩色も施され、漆を重ねている部分も少なくない。画材だけでも、今なら1億円以上かかっているはずですよ。大寺をスポンサーにした世紀の一大プロジェクトだったんです。